学校へと向かう飼い主を見ながら、黒猫はにゃあと鳴いた。






二丁目のネコ







中森と表札の掛かっている家の塀の上を黒猫は歩いていた。
快斗は用心深く回りを見渡し、誰も居ない事を確かめてからひらりと屋根へ降りた。

「青子!」
ベランダでボール相手に遊んでいる白猫に声をかけ、快斗はベランダの淵へと着地する。
「快斗v」
ボールを放って快斗の方へと駆け寄ってくる白猫はこの春に生まれたばかりの生後半年の子猫。
全身真っ白な毛並みだが、シャムが混ざっているのかどこかほっそりとしている。
瞳の色はブルー。これもシャムの血だろう。
遊んで。とばかりに快斗へ擦り寄ってくる青子に快斗は嬉しそうに目を細める。






りんと鈴の音が鳴る。
「あら、随分と仲良しなのね」
ベランダへ優雅な動作で入ってきた猫。
「紅子・・・」
「紅子ちゃん!」
そこにいたのは左右の目の色の違うロシアンブルー。
片方がグリーンでもう片方が赤に近いオレンジ。
細い黒い首輪が良く似合っている。

「めずらしーじゃねーか。オメーがここに来んの」
「あらご挨拶ね。中森さんとは友達だもの。あなたが居ないときに遊びに来てるのよ」
黒羽君?
嫌味を流し、さらりと言う紅子に快斗は心底嫌そうな顔をする。
「いまは工藤だよ」
「あら。工藤君って呼ばれたかったの?」
それは気づけなくてごめんなさいね。
紅子はゆらりゆらりとしっぽを動かし言葉を続けた。
「いや、呼ばれてーとかそんなんは全然ねーけど」
間髪入れず返すと紅子に「じゃ黒羽君でいいじゃない」と言い返された。

1人(1匹)事情の分かってない青子は「?」と首をかしげたのだった。






「おやおや、皆さん何やら楽しそうですね」
突然頭上から聞こえた声。
振り向くとそこには1匹の白猫。
二階の屋根からこちらを覗き込んでいる。
1ヶ月前頃江古田町にやってきた流浪猫だ。

野良猫でありながら、何故かその毛並みはいつもつややかで美しい。
気障な口調と柔らかな物腰が魅力とかでこの近辺の雌猫はだいたいこいつのファンだ。

「こんにちは。小さいお嬢さん」
「こ、こんにちは」
ひらりと青子の隣へと舞い降りたキッドを快斗は睨みつけるがキッドはその視線をキレイに流し、青子へと話し掛ける。
青子は初めて会う猫に驚いていたがきちんと挨拶を返す。
「かわいいですね」
にっこりと青子に微笑むキッド。
褒められて嬉しそうな青子。
ぎんっとキッドを睨む快斗。
その中で、紅子はこの成り行きを楽しそうに傍観していた。


「秋になったら私と恋愛しませんか?」
言葉と共にキッドは青子の顔をぺろりと舐める。
その行動についに快斗はキレた。
「てめぇっ!!」
キッドは快斗の威嚇を全く気にも留めてない様子でひらりと塀の上へ飛び乗る。
「また来ますねv」
にっこりと微笑み、キッドは塀の向こう側へと消えて行った。



「二度と来んな!!」



快斗の絶叫がご近所に響き渡ったのは、そのすぐ後。




END




黒猫の恋愛模様はまだまだ前途多難。
強力なライバルとさっぱり分かってない子猫な恋愛相手。



黒猫の日常と恋愛模様について。 2003.02.22