待ち合わせは駅前の喫茶店。



待ち合わせは駅前で



カラン・・・!


喫茶店の扉が勢い良く開いたとき、青子は注文したパフェを丁度一口食べたところだった。
「遅ーーい!!」
待ち合わせ時間を一時間以上もオーバーしてから現れた待ち合わせ相手に、青子は大きな声で文句を言う。
つかつかと青子の方へ向かってくる快斗は、なぜか言い訳をしない。
珍しく軽く肩で息をしている。
少し不思議に思い、青子は「?」と首をかしげる。
快斗は青子のいるテーブルまで来ると、溜息を一つ吐いてテーブルに ばん と手を突いた。
「まったく、大ボケかましてくれやがって・・・!」
「何よ、大ボケってー!!」
まったく。ともう一度吐き捨てるように言ってから、快斗は青子の正面にどかりと座り、
「待ち合わせ場所は?」
と聞いた。
「ほえ?駅前のサ店でしょ?」
ぱくりっと生クリームをすくって口に入れながら青子は答える。
快斗はテーブルに肘を付き、左手の上に顔を乗せる。
目は半眼になっていた。
「東口のな」
ゆっくりと一語一語区切って言った快斗の言葉に、青子は手元を止めて ほへ?という顔をする。
ちょいちょいと快斗は空いている右手の人差し指で外を示す。
その動きに青子はついと視線を動かす。
スプーンはまだ口の中に入ったまま。


「あ・・・」


快斗の指差した方向には『江古田駅北口』の文字があった・・・。










「ごめんごめん」
口で言う程悪いと思っていない青子の様子に快斗は、
「この馬鹿」
と軽く悪態を吐く。
こっちはめちゃくちゃ探したっていうのに。
全く気楽なモンだぜ。
青子はパフェから目を離さずに弁解を続ける。
誠意がこもってない。と思ったが抗議は我慢する。
「携帯に連絡入れてくれれば良かったのに」
「・・・何度もしたよ」
「え?」
その言葉にがさがさと荷物を漁って携帯を探す。
青子の記憶が正しければ本日携帯は一度たりとも鳴っていない。
「電源入れとけよな」
なんのための携帯だよ。
快斗の文句は綺麗に無視し、青子は携帯の発掘に成功する。

が。

「あ、バッテリー切れてる」
どうりで鳴らないわけだ。
と、一人納得する青子に、快斗はもう一度溜息を吐いた。






「俺は探し回ったっていうのに・・・」
そう言いながら、快斗は腕をのばし、パフェの一番上に乗っているサクランボをつまむ。
「ちょっと、快・・・」
そして、そのままそれを口にぽいっと放り込んだ。
「ああーーーーー!!!」
青子の声は店中に響いたのではないかと危惧する程大きなモノであった。
「なんで食べちゃうのよー!! 最後に食べようととっといたのにーー!!」
「食べんのが遅いから手伝ってやろうと思っただけだよ」
中森青子。どうやら、サクランボは最後に食べる派らしい。
「酷いー!!」
大袈裟にも少し涙目になっている。
快斗は少し考えるように視線を彷徨わせ。
かたん。
快斗はテーブルに手を突き、上体を前に出す。
近づいた気配に青子が顔を向けると。


「これで満足か?」
再び椅子に座り、青子に問い掛ける。
青子の手から、からんとスプーンが落ちる。
真っ赤になったまま固まっている青子の口の中にはサクランボの種。


サクランボ味のキス。


唇に手を当てたまま、復活できずにいる青子に快斗が声をかける。
パフェを指差しながら。
「コレ、食べねーの?」
「・・・・え?」
「だから、パフェ」
「・・・・・あ、あげる」
「サンキュー」
テーブルに落ちているスプーンを拾い、パフェ本体を自分の方へ寄せる。
快斗は心底嬉しそうにスプーンをパフェに突き刺す。
スプーンでパフェのアイスをすくう。
じーっとそれを見てふと何かを思いつき、にやりと笑う。
ちらりと前方を見遣ると相変わらず固まったままの青子。
口元で何かぶつぶつ呟いていて傍から見ていると少し怖い。
「青子」
声をかけると、青子は快斗の方に視線を向ける。
にこりと微笑み、スプーンに乗っているアイスを口に入れる。


「なぁ、これも間接キスっていうのかなぁ?」


悪魔の微笑み。
きっと今、快斗から悪魔の羽としっぽが生えている事だろう。
再び顔を真っ赤にする青子。


「〜〜〜〜〜っこのバ快斗っ!!!!」








本日二度目の大絶叫は、今度こそ店中に響き渡った。




END




幼馴染〜って感じを前面に出してみました。
こんな2人を書くのが一番得意です。
かなり気に入ってます。どうでしょうか?