「もう、好い加減に起きなさいっ!!」 「う〜〜〜〜っあと5分〜〜〜」 頭上から聞こえる声に、快斗はもぞもぞと布団へと潜り込む。 最近はめっきり寒くなってきて、起きるのが日に日に辛くなっている。 そんな声に慣れたものなのか快斗の母は情け容赦なく、べりっと布団を剥ぎ取る。 「っ寒ぃ〜〜っ」 それでもなかなか起きようとせず、未練がましく布団を探して快斗の手は宙を彷徨っている。 そんな息子の様子に母は頭に手をあて深々と溜息を吐く。 そして、好い加減にしないと夕飯に魚を出すと脅すと慌てて起きる快斗。 それがいつもの黒羽家の朝の風景だ。 だが今日は少し勝手が違っている。 「快斗、雪が降ってるわよ」 「・・・・・・・っマジで?!!」 がばりと飛び起きた現金な息子に、再び快斗の母は溜息を吐いた。 がらりと雨戸を開けるとそこは一面の銀世界。 雪はまだ降り止まず、ますます積もるだろうとは背中から聞こえるテレビのキャスターのセリフ。 はぁ。と息を大きく吐くと、寒さで白くなる。 「すごーい♪」 少し冷えた手に息をかけると青子は楽しそうに微笑んだ。 父親の階段を降りる音がする。 青子は窓を閉め、朝食の準備に取り掛かった。 「いってきまーすっ!」 「ああ。いっておいで」 いつもより早く家を出る青子を銀三はにこにこと見送った。 とても楽しそうな娘の様子を見ているとこちらまで楽しくなると思いながら、出かけるまでの数分を新聞を読むことに費やすのだった。 青子は制服の上に紺色の学校指定のコートを羽織っている。 手には兎の模様の入った手袋。薄いピンクの傘を差している。 うきうきとステップを踏むように歩く青子に合わせて、首に巻いてあるクリーム色のマフラーが上下する。 ところどころ雪に滑りそうになるが、なんとか持ちこたえつつ歩いていた。 早く。早く行きたいと青子は思う。 一分、一秒だって早く。 だんだんと歩くスピードが速くなっていく。 逸る気持ちを抑えきれず、足は正直にスピードを増して行く。 最後にはもう走っていた。 顔にあたる風が冷たいのも、吐き出す息が白くて少し視界に邪魔なのも。 今の青子には気にならなかった。 早く、早く。 いつもの通学路。いつもの道。 白い雪が少し違った世界を作り創り出している。 いつものタバコ屋さんが視界に入ってきた。 目的地は、もうすぐ。 この角を曲がったところ。 この角を曲がれば、きっと。 きっと、君がいる。 「おはよう、快斗!」 「よぉ」 青子の予想通り、当然のように快斗はそこにいた。 少し壁に寄りかかるようにして、緑色の傘を差しながら。 「今日はずいぶん早いね」 「ま、たまにはな」 息は切れていて、顔は寒さで少しぴりぴりしていたが、青子は楽しそうに笑う。 快斗もそんな青子の様子に満足そうにすると、壁から体を離す。 「ま、まずは定番の・・・」 「雪だるま!!」 「いや、ふつーは雪合戦からだろ?」 「えぇー。じゃ、雪うさぎ」 「あのなー・・・」 着いたらまず何をするかを決めながら、二人は学校へと向かう。
|