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06.レトロ



「まだ〜?」
つまらなそうな声のトーンで青子は快斗に呼びかけた。
「もーちょい」
快斗は青子の方をちらりとも見ずに答えた。
かちゃかちゃと螺子を回す音が響く。
周囲には小さな部品が散乱し、快斗は現在それらと格闘中だ。
快斗の「もーちょい」はこの3日で20回以上は聞いている。
「つまんない」
快斗のベットの上でクッションをぎゅーっと抱きしめながら、青子は唸るようにつぶやいた。
青子が快斗の部屋に来てからもう1時間だ。
その間、快斗はずーーっと時計を直すのに夢中だ。
壁掛け時計は青子がこの小さいころからこの家にある、古い時計だ。
その時計が止まってから3日。
まだまだ直りそうにない。
「ここをこーすれば・・・よし、はまった」
嬉々として次の部品に取り掛かる快斗を横目に青子は頬を膨らませる。



そのレトロな時計が奏でる鐘の音はとてもきれいで青子も気に入っている。
だから快斗が直すと言ったときはホントに嬉しかった。
またあの鐘の音が聞けるのが楽しみだった。

でも。
これ以上ほっとかれるのもイヤだなぁと青子は小さくため息をついた。



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「ひまだーー・・・」
新作のマジックも思いつく限り作った。
好い加減ネタも尽きた。
でも、相変わらず雨が降っていて。
雨の休日ほどつまらないものはないと心底った。

くるっく と鳩が鳴いた。


07.携帯電話



「だーもう、ホンッットひま」
暇だ暇だと言葉にするのにも飽きてしまった。
だが暇なときに限って誰からのお誘いもなく、携帯電話は沈黙を保ったまま。
くそ。と小さく呟いて遊んでくれそうな相手に連絡を取ろうと携帯の電話帳機能を操作する。
ボタンを押して次から次へとクラスメートの名前を出す。
ふと、凄く見慣れた幼馴染の名前が出てきた。


窓ガラスを叩く雨音が少し弱まった。


この雨の日をどう過ごしているだろうか。
もしかしたら忙しくしているのかもしれない。
けれど、そんなことは俺には関係ないし。
アイツも暇だったらからかってやろう。
もしも忙しいなら盛大に邪魔してやろう。
携帯電話をぱちんと閉じてゆっくりと立ち上がる。

外は雨が降っていて、さっきまでは暇だったのに、今は口笛でも吹きたいような気分だ。




君の顔が見れるならそれだけで及第点。



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友達で、幼馴染で、クラスメートで。
もちろん今のままだって大好きだけど。



08.境界



いつもと同じ日常。いつもと同じ帰り道。
だけどどこか違う、今日という日。

カンカンと音を響かせて踏み切りがゆっくりと下がって行く。
ちらりと右隣を盗み見ると快斗は眠そうに目をこすっていた。
どこかだるそうに肩に学生鞄をかけて踏み切りが開くのを待っていた。
視線を前に戻すと同時に電車が入ってきた。
風が起こり、青子の髪をなびかせる。
ガタンゴトンという音がどこか耳に心地よい。
(・・・よし)
青子は心の中で自分に渇を入れる。
鞄を握る手に力がこもる。

なんとなく思った以上によく晴れた天気までが背中を押してくれているよう。
しかも今朝のテレビの占いでは堂々の1位を獲得した。
特に恋愛運は絶好調とのこと。
だからだからだから。

言ってしまおうか。
この踏み切りが上がったら、君に。





今はまだ、友達で幼馴染でクラスメートで。
だけど。
明日からはきっと違う関係。



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09.冷たい手
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10.ドクター
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