「ああ、もう!完全に遅刻!!」 電車から飛び降りた青子は駅のホームから改札へと続く階段を一段飛ばしで駆け下りていた。 真っ白なダッフルコートを着て、クリーム色のマフラーをはためかせている。 人の波を上手くかわしながら改札口を出る。 ふと近くにかかっている時計に気づき、目を見遣ると。 (やばい〜〜〜!!) 約束の時間は30分も前に過ぎ去っていた。 青子が快斗との待ち合わせ場所である時計台のある公園の入り口に着いたときは、さらに10分後の事であった。 はぁはぁと切れる息を整えつつ、青子は公園へと入っていった。 待ち合わせ場所である時計台の下にはカップルが数組いたが、相手の姿はなく、青子はきょろきょろと辺りを見回した。 どうしていないのだろうか。 青子が遅刻したのを怒って帰ってしまったのだろうか。 嫌な考えが後から後から湧いてきてしまう。 絶対にいると信じて、青子はもう一度相手の姿を探し始めた。 すると青子の後方で突然歓声が湧いた。 青子が振り向くと、そこには人だかりができていた。 なんだろうと思って青子が近づいてみると聞いた事のある声が高らかに響いた。 (もしかして・・・!) そう思い、青子が人だかりに近づこうと足を向けると。 羽音をたててどこからか鳩が一羽、青子の近くへやってきた。 ばさばさと羽ばたきを繰り返し、どこか止まる所を探しているようであった。 (やっぱり、そうだ) その鳩には見覚えがあった。 青子が手を差し出すと鳩は静かに舞い降りてきた。 くるると喉を鳴らす鳩の頭を2、3度なでてやると、その鳩は青子の手から飛び立ち、人だかりの中心へと飛んで行った。 鳩の飛んでゆく方向へと、青子は視線を動かす。 人だかりの中心にいる人物の肩にふわりと自然に止まる。 鳩が止まった相手は、やっぱり青子と待ち合わせていた少年だった。 「快斗」 小さく呟いたその声が聞こえたのか、快斗は青子の方を見遣り小さく笑う。 快斗は愛しそうに肩に止まっている鳩をなでてやると観客たちの方へと向き合った。 「それでは、最後のマジックとなりました。皆様、良いクリスマスを・・・・・」 優雅に一礼してから快斗はぱちんと指を鳴らした。 その音を合図に、快斗の周りに集まって大人しく座っていた鳩たちが一斉に空へと飛び立った。 もちろん、快斗の肩に止まっていた鳩も同様に。 人々は反射的に空を見上げる。 空からは羽がまるで雪の様に降り続けていた。 クリスマスにふさわしい幻想的なマジックだった。 ふわりと。 青子の目の前にも羽が舞い降りてきた。 落ちてきた羽を両手のひらを差し出し、受け止める。 まるで狙っていたかのように、羽は青子の手のひらに舞い降りた。 青子が頬を緩ませた、その時。 「遅刻だぜ」 言葉と共に青子は暖かい腕に抱きしめられた。 背中に感じるぬくもりが心地よい。 振り向かなくたって、誰だか分かる。 青子はごめんねと小さく呟やいた。 「マジック、かっこ良かったよ」 「当然だろ」 ナナメ後ろから聞こえてくる声に青子は苦笑する。 快斗の顔が見えるように青子は首を後ろに傾けた。 目が合う。 「メリークリスマス」 快斗はぽんと音を立てて薔薇の花を取り出し、青子へと差し出す。 快斗のいつものマジック。 でも青子には先程、みんなの前でやっていたマジックよりもずっとずっとキレイなもののように思えた。 赤い薔薇の花を、青子は嬉しそう受け取る。 「・・・メリークリスマス」 |
クリスマス企画小説です。 時間がなかったなりに頑張りました。 テーマは遅刻。青子が遅刻しました。 あ、青子の手に止まった鳩は快斗に頼まれて青子番をしてたのですよ。 |