事の始まりは昨日の朝。 『「初恋」って実らないのが常識らしいよ』 雑誌を片手に真剣に語るクラスメート。 ―――最初に浮かんだのはアイツの顔。 本来なら清々しいはずの朝も、このムカツキを静める効果は無い様だ。 どかん。と鞄を乱暴に机に置き、荒々しく椅子に座る。 クラスメート達の視線も気にならなかった。 頗る機嫌が悪かった。 原因はもちろん昨日の一件。 あの幼なじみがあそこまで馬鹿で鈍いとは思わなかった。 昨日快斗に告げた『初恋の相手』。 意地っ張りで素直じゃない自分の精一杯の告白のつもりだった。 ・・・それなのに。 言うに事欠いておじさん!!? ふざけんなって感じだ。 「あら。ずいぶんと元気が無いのね」 珍しいわね。 机の上で腐っていたら少し上から声が掛かる。 「紅子ちゃん・・・」 クラス一の美少女、紅子ちゃん。 紅子ちゃんくらい美人だったら、きっと初恋だって実るんだろうなー。 そう思うとますます元気が無くなってくる。 「ねぇ、紅子ちゃんの『初恋の相手』ってだぁれ?」 「あら。またその話?」 そう。『また』なのだ。 昨日クラスメートにさんざん聞いて回った。 だけど。 一番聞きたかった相手からは聞いていない。 「クラスの皆に聞いて参考にする前に、最初から本命に聞けば良いのに」 紅子ちゃんはまぁ頑張ってねと笑いながら行ってしまった。 『最初から本命に聞けば良いのに』 それは至極尤もな意見。だけど。 「聞けないよ・・・」 アイツがまともに答えてくれるはずがない。 現に昨日だって。 真剣だったのに。勇気だって出したのに。 結局はぐらかされて。 はぁ。 深々と溜息を吐いてしまう。 「私の初恋も実らないのかな・・・?」 ぽつりと誰にも聞かれないように呟く。 声に出してみたら。言葉にしてみたら。 なんだか急に現実味が帯びて来て切なくなる。 「あーおこっ!」 突然掛けられる元気な声。 それは正しくアイツのモノ。 青子がこんなにも落ち込んだ原因を作ったヤツ。 おはよ。と挨拶だけはしておく。 それきり不機嫌げにぷいっとそっぽを向く。 如何にも昨日の事でまだ怒っているとでも言う様に。 ・・・顔なんて見れない。 だって自分がどんな顔をしているか分からないから。 聡いアイツはきっと気付く。 この気持ちに。 今にも泣きそうな、この心に。 ぽんっと耳元で小さい破裂音。 視界に映る紅。 差し出されたのは一輪の小さな赤いミニバラ。 そして快斗の優しい笑顔。 「やるよ」 何も言わず、何も聞かず、ただそれだけ。 「ありがとう、快斗」 「どういてしまして」 こんな小さな、簡単な事で青子の心は温かくなって行く。 元気が出てくる。 もう、いつもの青子に戻れる。 ありがとう。話し掛けるようにバラを口元へ寄せる。 やっぱり大好きだよ、私の『魔法使い』さん。 「ねぇ」 「んー?」 快斗は自分の席に付き、がさがさと新聞を取り出しながら応える。 「快斗の『初恋の相手』って誰?」 がこんっ。 あ。なんか痛そうな音。 椅子をそんな風にぐらぐらさせるから倒れるのよ。 今度から注意しなきゃ。 音に驚いて皆見てるし。 ホント快斗って相変わらずのバ快斗。 「お前、まだそんな事言ってんのかよ!!」 がばりと快斗は立ち上がり、大声を上げる。 あんな派手な音立てて落ちたのに痛くないんだろうか? さすがだ。 「だって快斗の聞いてないもん」 「さあね。知らねー」 惚けてはいるがそんなのは無駄な足掻き。 青子のは教えたのにー。 そう言うと快斗は少し眉を顰めた。 そんな顔したって駄目なんだからねっ。 青子はちゃーんと教えたもん。 ・・・快斗が勝手に勘違いしてたけど。 「・・・・・ぜってー教えねぇ」 「えー!!何でよー快斗のケチッ!!」 低く唸る様に言う快斗に青子は盛大に文句を言う。 「青子ーー!!」 そのままぎゃいぎゃいと言い争いをしている所にクラスメートが呼びかける。 声がした方を振り向くとクラスメートが言葉を続ける。 「担任が呼んでるよー」 「ありがとっ!」 青子は快斗の方も見ずに教室のドアへと駆け出す。 だから、青子は気付かなかったのだ。 快斗がポーカーフェイスを崩して眉を顰めた事も。 青子がいなくなった教室の中で 「親父よりすげぇ魔法使いになってやろうじゃねーの」と挑戦的に呟いた事も。 |
ギャグにならず(しくしく) なんか消化不良。悔しい。 こちらは青子視点。 +おまけ+ |