「あ、快斗」
快斗が青子に呼び止められたのはお昼休みの終わりかけていた時だった。
丁度、毎度の事にキッドの事で絡まれていたので、天の助けとばかりに対応する。
「あん?なんだよ」
「あ、白馬君もなんだけど・・・」
「僕も・・・ですか?」
左手にぶら下げている大きな紙袋の中から取り出された物を青子は2人へと渡す。
掌大の大きさで小奇麗にラッピングされピンクと白のリボンで可愛く結ばれている物を。



「はい。チョコレートだよ♪」





ちょこれーと。






ありがとうございます。
と先に動いたのは白馬だった。
「なんか有り難味ねえ」
快斗は少し不満げにそれを受け取る。
そんな快斗の様子に青子はぷーっと頬を膨らます。
「なによう!そんな事言うなら来年から快斗にはあげないからねっ」
「そりゃ、もうしわけない。有難く頂戴いたしますよ」
「誠意が足りないー!」
ぷりぷりと腰に手をあてて青子は快斗に文句を言う。
青子の持つ紙袋の大きさを見て、快斗は思いた考えを口に出してみる。

「まさかとは思うが、お前全員に配る気か?」
何馬鹿なこと言ってるのよーと少し呆れたように青子は呟く。
「当然でしょ?全員分持ってきたんだから」
「ふーん」
当然、ねぇ・・・。
青子から先程貰ったチョコレートで肩をぽんぽんと叩きながら、快斗は相槌を打つ。
快斗の目がすっと細められたが青子が気づく事はなかった。

「あ、大村くーん!」
青子は向こうからやってくるクラスメートに気づき、手を振る。
持っている大きな紙袋をごそごそと漁り、箱を一つ取り出す。
先程快斗や白馬に渡したものとなんら変わらない四角い形状の物体を。


「ワン」
快斗の呟きは側にいる白馬の耳に入り、白馬は視線を快斗へと移す。
白馬の疑問の目を快斗はキレイに無視する。

「トゥ」
取り出された箱を見てクラスメートは喜びの顔をする。
「あのね、これ・・・」
てとてととクラスメートの元へ小走りに近づく。
そしてチョコレートを大事そうにクラスメートへと差し出した。
「義理で悪いんだけど・・・・」

「スリー!!」
快斗の掛け声と共に辺りには煙がもくもくと上がる。
同時に沢山の鳩たちが廊下を飛びまわり、羽ばたきが煩い。
「な、何?何なの〜?」
青子の問いかけに答える者は居なかった。




しばらくして煙が引き、元凶である快斗に文句を言おうと辺りを見回すのだが当然の様に忽然と姿を消している。
と青子はふと手元がやけに軽い事に気づく。
「あーーーーっ!!」
持っていたチョコレートが紙袋ごとキレイさっぱり姿を消していたのだった。
大村君に渡そうと手に持っていたチョコでさえ跡形もなく消えているのだ。
こんなくだらない馬鹿な事を仕出かす人物に、青子は一人しか心当たりがなかった。
「かぁいとぉーー!!」
忽然とその姿を消した幼馴染の名前を、青子はまるで親の敵のように叫んだ。

「チョコレート返しなさいよーー!!」
どこへ行ったか分からないがじっとしている事も出来ず、とりあえず廊下を右方向へと青子は走って行く。
ばたばたと廊下を音を立てて走って行く青子に顔には少なからず、焦りの表情が浮かんでいた。


残されたのは白馬以下クラスメートの面々。
白馬は軽く溜息を吐く。
ふと手元を見ると青子から先程貰った白馬の分のチョコレートも消えていた。
「まったく、人騒がせですねぇ・・・」
やれやれと呟く白馬に、側にいる被害にあった生徒たち全員が同意した。






自分の貰ったチョコだけがハートの形をしている事に機嫌を治した快斗が戻ってくるまで、もう少し。









END




こんな役どころの白馬が大好きです。