1日遅れのバレンタイン コンコン とっぷりと夜も更け、草木も眠る丑三つ時。 白い影がとある家の屋根へと降り立った。 怪盗キッド。 いつもの優雅な動きで屋根へ降りた彼は屋根伝いに移動し、とある窓ガラスの前で止まった。 ふぅ。と一呼吸してから、キッドはその窓ガラスを控えめなノックで叩いたのだった。 ノックを二回ほど繰り返し、キッドはからからと窓を開け入り込もうとした。 その時。 カーテンを強く引く音にキッドは顔をあげる。 そこにはこの部屋の主、青子が立っていた。 口を真一文字に結び、目は半眼だ。 怒ってる・・・。 キッドは内心で汗をかく。 「よぉ、青・・・」 「本日の受付は全て終了いたしました。後日またどうぞ」 「お、おい!」 それでも和やかに話し掛けてみるが、取り付く暇もなくぴしゃりと窓を閉められてしまう。 勢いよくカーテンが引かれ、中の様子の窺えない部屋の窓の外にキッドは取り残された。 肩を落とし溜息を一つ吐きシルクハットを被り直すと、キッドは再び窓ガラスをノックしたのだった。 コンコン 何の反応もなく、キッドはノックを繰り返す。 しばらく繰り返していると徐にカーテンが引かれ、先程と同じく仏頂面の青子が顔を覗かせた。 「よぉ、青子」 先程言えなかった挨拶を再び言ってみる。 青子はぶすっとしたまま、窓ガラスを開けた。 手には青子愛用の目覚し時計が握り締められている。 その時計をキッドへとよく見えるように突き出し、青子は深夜であるため声を落としつつ強い調子で言う。 「・・・時計見てみなさいよっ!バレンタインはもう終わりました!」 いまから来たって何もないわよ! なるほど。たしかに時計の針は1時5分前を指している。 だがキッドだって正当な理由があるのだ。 「しゃーねーだろ?バレンタイン限定公開だったんだからよ〜」 シルクハットを外し、掌の中へ消しながらキッドは言い訳をするが、青子は全くとりあわない。 「そんなの知りませーん」 「ちゃんと言っといただろーがっ!」 ぷいっと横を向く青子にキッドは叫びたくなる気持ちを押さえる。 「聞いてませーん」 青子のへそはすっかり曲がってしまったらしく、キッドの言葉を肯定しない。 ついには両掌で耳を塞ぎ、今度は逆の方に顔を背けてしまうのだった。 はぁ・・・・。 100%お手上げ状態となってしまった。 深〜く溜息を吐き、肩を落とすキッドに青子は畳み掛けるように日ごろの文句を言う。 「下見だ、準備だってすーぐ青子との約束破るし」 「寝てばっかで青子の話聞いてくれないし」 「帰ってくるのだって遅いし」 「だいたいねぇ。仕事ばっか優先してるとだと愛想尽かしちゃうんだからねっ!」 「それは困る」 長々と続くお説教を甘んじて受け止めていたキッドだったが、最後の青子の言葉には即座に反応する。 「それは非常に困るぞ」 「・・・・・・・・でしょ?」 だったらもう少し青子を優先してよねっ! びしりと指を立てて青子はキッドへとせまる。 「わーった。もう少し気をつける」 「『もう少し』?」 「気をつけますっ!」 「よろしい。じゃあどうぞ」 その言葉に青子はやっとキッドを部屋へと招きいれたのだった。 「―――で、俺のは?」 やっと部屋の中へ入れたキッドはやれやれと青子のベットへと腰掛けた。 そして、この部屋へと訪れた目的を思い出し、青子へと尋ねた。 「ないわよ」 「なんでっ?」 あっさりと言い放つ青子にキッドは思わず腰掛けていたベットから立ち上がる。 「時計見た?もうバレンタインは終わったの」 これは相当根に持ってるな・・・。 そう判断したキッドは、まずは青子の機嫌を治すのが先だと掌の中へと消したシルクハットをもう一度取り出し、深くかぶった。 キッドはすっと纏っている気配を変えると、 「ご機嫌ナナメのお姫様のために1日遅れとなりましたが、私のバレンタインショーをご覧下さいませ」 恭しく一礼をする。 ぱちんと指を鳴らすと青子の部屋の電気が落ちる。 窓から入ってくる月明かりだけが光源となる。 「そうね。すごーいマジックを見せてくれたら機嫌を治してあげようかな?」 青子はわくわくする気持ちを隠してそう言った。 引き出しの中ではチョコレートがこっそりと出番を待ってた。 |
はたしてこれをキ青と言って良いのか・・・。 むしろ快青?? |