バレンタインってのは恋人たちにとっては特別な日のはずだ。 付き合ってるあの娘とちょっとは進展できるんじゃないかとか、うまくすればアレコレ出来るかも なんて多少は不健全な妄想をしてしまうのもしかたがない。 そんなイベントであるはずだ。 同意を求めたところ、粗方のクラスメイト(主に男)が頷いたので知識は間違いないはず。 なのに快斗の恋人である青子はここ二、三日機嫌が悪い。 なぜか、チョコの話題を聞くたびに不機嫌になるのだ。 見ていた再放送のドラマがCMに入った。 快斗はCMに入ったとたんに軽く眉をしかめた。 せっかく盛り上がってるシーンだっただけに、CMが邪魔に感じられる。 CMが入ると今までストーリーの腰が折られ、ふと現実に戻されるところが好きじゃなかった。 暇そうに息をついた快斗に横からカップが差し出された。 礼を言ってカップを受け取ると、中からは紅茶のいい香りがした。 台所へ行っていた青子がカップの中身に注意しながら快斗のとなりに座り込む。 「おもしろい?」 「それなりに」 ふぅんと小さく呟いた青子は、カップの中身に息を吹きかけながら冷ます。 猫舌な青子は、少し怖々とカップに口をつけている。 「青子は通常放送のときも見なかったなぁ」 「まぁ、青子の好みからは外れてるかもな」 オレはわりと好きだけど。 会話を交わしつつ、快斗はカップを持っていない方の手で、適当にチャンネルを変えていった。 ふと回したチャンネルで、聞きなれた単語が耳に飛び込んできた。 快斗が思わず手を止めると、その番組ではキッド宛に警視庁にチョコレートが次々に送られてきていると報道していた。 いかにも昼の暇な奥様が好きそうなワイドショーだなぁ、と思いつつも、気になった快斗は興味津々で番組を見た。 そんな快斗はとなりに座っている青子の温度が少し下がったことには気づかなかった。 レポーターがチョコレート売り場で女性に声をかけると、女性達は一様にキッドにチョコを送るつもりだと答えている。 キッドがモテることに悪い気はしない快斗は、思わず口元が緩む。 ワイドショーもCMに入ったことろで快斗はふと我に返り、再び先程見ていたドラマの再放送へとチャンネルを変えた。 違う番組を見ていたせいで、ドラマはとっくにCMは終わっており、続きが始まっていた。 少し見損ねたせいで、ストーリー展開が少し分からないものへとなっている。 見てればそのうち分かるだろうと快斗は気楽に考え、テレビに見入ろうとした。 そのとき、となりで同じくテレビを見ていた青子が口を開いた。 「キッドの正体が、こんなバ快斗だって知ったらみんな幻滅するんだろうね」 ちくりとトゲのあることを言う青子に、快斗はちょっとカチンときた。 快斗だって男だ。やはり人気があることに悪い気はしない。 「なんだよ、それ」 「べーつーにー」 「言いたいことがあるなら、はっきり言えよ」 「世の中の女の子は騙されてるね、かわいそう」 軽くムカツク態度を取られた快斗は文句を言おうとして口を開いたが、やめた。 それよりも急に機嫌が悪くなった青子の不自然さが快斗は気にかかった。 さっきまで普通だったのに。なぜ青子は不機嫌になったんだ? 快斗はさっきあったことをつらつらと思い浮かべた。 青子の家に来るまでは普通だった。 テレビを付けてから? やっていたのはドラマの再放送と、キッド宛のバレンタイン特集。 快斗は、ふと思いついたことを口に出してみた。 「なぁ、青子」 「なによ」 やっぱりトゲトゲしい様子の青子に、快斗は言葉を続けた。 「・・・もしかして、やきもち焼いてんのか?」 「っ!!な、何バカなこと言ってるのよ!そんなことあるわけないでしょ!!」 勢いこんで反論するも、思わずどもったセリフとか顔が赤いところを見る限り、どうやら図星らしい。 青子はさらに、「ずーずーしい」や「自意識過剰」などの言葉を続けるものの、明らかに焦っているのが見え見えで全く誤魔化せていない。 耐えきれなくなった快斗が思わず肩を揺らす。 最初は小さかったもののだんだんと大きくなる笑いに、青子はますます顔を赤くする。 笑う快斗に、青子は快斗の背中をぽかぽか叩いて抗議する。 「なんで笑ってんのよ!バ快斗!!!」 思いっきり叩いているつもりなのだろうが、笑いが止まらない快斗にはあまりダメージにならない。 ひとしきり笑った後、快斗は振り上げた青子の腕を掴み、叩くのを止めさせる。 体をすばやく回転させ、青子と正面を向いた。 快斗は笑いを止めて青子と向き直ると、出来る限りの優しい声で真摯に謝る。 「ごめんな」 そんな快斗を、青子は顔を真っ赤にしたまま睨みつけた。 「快斗のバカ」 「ホントごめん。謝る」 「・・・それだけ?」 「警視庁にはチョコは処分してくれって連絡入れるよ」 「他には?」 「もうチョコは受け取らないってメッセージを新聞に載せるよ」 「・・・・・・・・」 それでいいか? 優しく問い掛ける快斗の声に、赤い顔のままの青子は、快斗を睨んだまま小さく言った。 「みんなにキッドには本命がいるって言って」 「承りました、お姫様」 快斗は青子のかわいらしいやきもちにまた笑いそうになったが、口の端を緩めただけで止めておいた。 そのかわり、青子の手の甲に恭しく唇を落とした。 今日はバレンタイン。恋人たちにとっては特別な日。 付き合ってるあの娘とちょっぴり進展できそうです。 |
フライングもいいところですが、バレンタイン小説。 付き合ってる&キッド=快斗カミングアウト済み設定ですね。 やきもち焼く青子ってかわいいよなぁって思います。 ホント、快青はかわいいカップルですよね! |