□□ 雨音 □□





「も〜〜〜〜!!38℃もあるじゃない!!」

何考えてんのよ!と蘭は体温計を見ながら怒った。
「いや、動き出せば何とかなると思ったんだよ」
さっき脱いだパジャマにもう一度袖を通しながら反論してみたが、これだから新一は・・・と、かえってお小言が増えてしまった。






その日は、久しぶりに予定のない日曜日。
蘭に一日付き合う事になっていた。
だけど、実際朝起きてみたらなんだか頭が朦朧としていた。
風邪かなと思いつつも、まぁ何とかなるだろうと気楽にかまえていたのだ。
だが、迎えに来た蘭に一目で不調を見抜かれてしまった。


「俺が調子悪いの、よく分かったな」
幼なじみの観察力に感心しながら言う。
自慢じゃないが、あの母親の影響もあって演技は得意な方だ。
新一の言葉に蘭は事も無げに答える。
「新一の事ぐらい、見れば分かるわよ」

さすが。と思いながら、ふと記憶の糸が揺れる。
「・・・あれ?前にどっかで似たようなセリフ聞いたことあるような・・・」
考えてみるが、やはり熱のせいか思い出せない。
「気のせいじゃない?」
蘭にあっさり否定されて、気のせいのような気もしてきた。

「そうかも・・・・」
「そうだってば。はい、薬」
差し出された薬と水を受け取り、飲む。

「ほらほら、薬飲んだら寝る寝る!」
急かすような蘭の言葉に はいはい と従い、階段をのぼる。








しとしとしと・・・

「やっぱり、降ってきちゃったね」
朝から曇ってたしねー
そうつぶやく蘭の声も、静かに降る雨の音も
今の俺にはまるで子守唄のようで。

「具合、どう?」
少し上から聞こえる蘭の声。
響きに含まれる労わりの感情。
「大丈夫」
「嘘ばっか」
とても心地よい。
疲れていた。と、はっきり認めることができる。

「まだ少し熱があるみたいね」
蘭は俺の額と自分の額に手を触れ、熱を測る。
俺の額に触れる蘭の手。
少し冷たくて気持ちがいい。
「・・・・・気持ちいい」
そう言った途端、ぱっと蘭は俺の額から手を離した。
蘭を見上げると心なしか少し顔が赤い。
俺の視線に気づいたのか、蘭は急いで言葉を紡ぐ。
「おかゆ、作ってくるから」
少し寝ててね。
そう言われて俺は再び目を閉じる。

ぱたぱたと階段を下る音。
とんとんと包丁がまな板を叩く音。
かちんとコンロに火がつく音。
風邪のせいだろうか、いつもより音がよく聞こえる。


雨音と。
それから蘭の存在と。
・・・・・・なんだか安心する。

ああ、たまにはこんな日も良いかもしれない。
そんなことを思いながら俺は眠りに落ちた。

















次に目が覚めたときは、きっと快晴。










END






7割がた実話。
たまにはしっとりと。ほのぼのと。
やはり風邪の時は雨の日にかぎる。
あのしとしと音が体に響くようで、なんとも言えない。