valentine kiss







「新一、口開けて」

リビングで本を読んでいた新一は本から目を離すことはなく。
だが素直にその声に従い、口を開けた。
――途端に口の中に広がる甘い味。


「・・・・・甘」

思わず顔をしかめる。

「これでも甘さ控えめなのに・・・」
新一の反応に蘭はがっかりしたように言う。


リビングにいても香るチョコの甘い香り。
毎日のように香るチョコの匂いにおっちゃんが胸焼けをおこし、毛利家の台所から昨日追い出されたらしい。
そんなわけで蘭はさきほどから工藤家の台所を占拠して、チョコ作りに勤しんでいる。


バレンタインまで、あと3日。


渡す本人の目の前でチョコ作りってのはあんま聞かないけどな。
ぼんやりとそう思いながら蘭の様子をちらりと覗き見る。
蘭はバレンタイン用の本を見ながら、うんうんと唸っていた。
「トリュフは駄目だったか・・・」というつぶやきが聞こえる。

(トリュフがどうとかじゃなくてさぁ・・・)
甘いもの、好きじゃないって知ってんだろ?
・・・・・・・知らないというのなら、教えてやろうか。

新一はにやりと笑うと読みかけの本を閉じ、立ち上がる。
蘭のいるキッチンまで来ると、
「・・・・なあ、もう一個くれよ」
いつもの口調で言う。
企みを隠して。
「え?美味しかった?」
嬉々として応える蘭。

新一はそれには応えず、チョコをぽいっと口へ入れる。
それと同時に蘭の腕をぐいっと引く。
気がつくと蘭は新一の腕の中。

「――ちょっ・・・!!」

文句を言おうとひらいた蘭の口をふさぐ。
触れる唇と唇。

それは触れるだけのやさしいキスから、角度を変えて深いキスへと。





「な?甘いだろ?」

確認するように問い掛ける新一の声。
もう唇は自由になっている。
蘭の口の中にはさっきのチョコ。


甘い甘い口溶け。





「・・・・・・・どっちが?」

少し上気した顔の蘭は上目遣いに問い掛ける。







――甘いのはチョコ?


―――――それともキス?








その問い掛けに新一はいつもの不敵な笑みを浮かべる。
そして耳元でやさしくささやく。



「どっちも」











甘いチョコは苦手だけど、甘いキスなら大歓迎。






二人でくすくすと笑い合って。




―――――もう一度、甘いキスを味わった。










バレンタインまであと3日。




それまで何回キスしようか――――?









END




らぶらぶ。
あまあま。
ごちそうさまでした。