運命のヒト




天気は良く風は心地よい昼さがり。
ここ数日は過激な攘夷派による事件もなく、わりと平和な真選組屯所内で近藤と土方と沖田は一つの部屋に集まっていた。
とはいえ、沖田はいつもの人を小馬鹿にしたようなアイマスクを付け昼寝中である。
縁側の真中に堂々と大の字に寝ている沖田は通る人にとっては非常に邪魔だ。
だが、ここは局長である近藤の部屋なので有事の際にしか人は通らない。
そのため、沖田は気にせず眠りについていたのだった。

そんな沖田をいまいましく見つめながら土方は茶をすすった。
揺すろうが怒鳴ろうが一向に起きる様子のない沖田に、土方は深くため息をつき好きにさせることにしたのだった。
土方の向かいにいる近藤はあぐらをかいて座っており、机の上にあるお茶請けのせんべいを食べている。
顔には湿布、体には包帯が巻かれており、隊服を着ていても袖口からその白さが目に付く。
沖田から視線を近藤へと移した土方は、袖口の包帯につい眉をしかめてしまう。
土方は懐からタバコを取り出して口にくわえる。
思わず出そうになるため息をごまかすためだ。
近藤の怪我の原因は間違いなく、ストーカー行為に腹を立てた近藤の想い人の仕業だろう。


「怪我、大丈夫なのか?」
タバコに火をつける前に、土方はそう言った。
近藤は人並み外れた丈夫な体だと知っているが、ボコボコにされた姿をなんども見ていると、さすがに心配になってくる。
土方の言葉に近藤はせんべいた食べる手を止める。
何がだ?と言って土方を見遣る。
「お妙さんの拳はそりゃあ見事だったぞ」
「そーゆー問題じゃなくてよ」
「お妙さんの蹴りもそりゃあ素晴らしかったぞ」
「だから、そーゆー問題じゃなくてよ・・・」
脱力してきた土方に、やはり気づくことのない近藤は、むしろ誇らしげに妙の技の素晴らしさを語った。

「まったく。厄介な女にホレたな、近藤さん」
あそこまで豪傑な女性だとあまり上手くいくことはあまり歓迎できない。
できないが、近藤があそこまで入れ込んでいるのをすぐ側で見ているだけに、近藤を応援したい気持ちはもちろんある。
だから、土方はこう言うだけでやめておいた。
「もう何回もフラレてんだし、いいかげん別の女追っかけりゃいいだろーが」
「何を言う、トシ。10回や20回フラレたくらいで諦めたら男が廃るだろう!」
勢い込んで反論する近藤に、土方は冷静に言い放つ。
「だからって、ストーカーしていいってことにはなんねーけどな」
だが土方のツッコミは、妙がいかに美しくいい女であるかということを熱弁している近藤の耳にはとどかなかった。
「まるで、女神!!もしくは菩薩!!ああ、お妙さん!あなたは俺の運命の人です!!」
「う、運命の人・・・?」
「そうだ。俺はお妙さんに会うために今まで生きてきたんだ!お妙さんに会ったとき、俺はそう悟った・・・!!」
近藤の発言に、土方はついにキたかと思った。
やはり、よく顔を殴られているのが原因だろう。
脳までおかしくなったか・・・。と近藤に大変失礼なことを土方は思った。
「勝手に悟られちゃ向こうも迷惑だろうよ・・・」
呆れぎみの土方だが、しゃべっているうちに熱くなってきたらしい近藤はその様子に気づくことはない。
「トシにもいるだろう、『この人しかいない』という運命の人が!!」

「・・・運命の人ねぇ・・・」
立ち上がり拳を突き上げ宙に向かって熱く語る近藤は、完全に自分の世界に入ってしまっていて、土方の声はだいぶ前から聞こえていないようだった。
土方は相変わらずタバコをふかしながら、近藤の言った『運命の人』について考えてみた。


誰にでもいるというのなら、自分にもいるのだろう。
そして、たぶん、もう出会っているのだろう。
絶対に認めたくないが、それでも心の隅ではアイツ以外ではイヤだと思う自分がいるもの事実なのだ。


相変わらず熱弁を振るう近藤を横目に、土方は緩く煙をはく。
「俺のは『運命の人』なんて簡単な言葉で片付けるにはちょっと過激すぎるヤツだけどな」
開いている障子のむこう、縁側で暢気そうに寝ている沖田を見ながら、土方は呟いた。






天気は晴れ。
風は心地よく、平和な昼下がりの一幕。



 END






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沖土&近妙です。

これを沖土と言いきる、そんな自分に乾杯。
これを近妙と言いきる、そんな自分にも乾杯。
土方+近藤はすごく好きなので書いててすごく楽しかったです。

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