決戦の日は来た。 チョコレート狂詩曲 その日の朝、近藤はいつも以上に早く目を覚ました。 早々に顔を洗い、歯みがきを三回も行う。 朝ご飯を食べ終わると、希望と期待を胸に秘め屯所を後にした。 はやる気持ちを押さえつけられずに、近藤の足並みはいつも以上に大きく早い。 そんな近藤を奇異の目で見る人間が二人。 真選組副長土方と一番隊隊長沖田だ。 近藤はいつも早起きだが、今日はいつも以上に早起きで、朝からテンションも異常に高い。 堂々と聞くことはしなかったが、土方と沖田は気になっていたのだった。 屯所の門の影からそっと近藤の様子をうかがってみると、街を歩く近藤からは異様な緊張感が漂っている。 「なんだ、ありゃ?」 首をかしげる土方の横で、沖田は持ってきた茶碗で飯を頬張る。 「近藤さんの頭にだけ一足先に春が来たんじゃないですかねィ」 「一年中頭ん中が花盛りなお前が言うな」 沖田に冷たく突っ込むと土方は朝食の続きをしようと踵を返した。 二・三歩進んだ土方は、ふと足をとめる。 「そういや、今日は屯所中がなんか浮き足立ってるな・・・」 「いつもこんなもんじゃないですかィ?」 立ち歩きながら飯を食いつづける沖田に、土方は注意するのも面倒くさくなる。 「まあいい。飯食い終わったら見廻りに行くぞ」 「へーい」 やる気のなさそうな声で沖田は返事をした。 未だかつてないほどに、近藤は緊張していた。 チャイムを押す指が震える。 何度も押そうとしては押せずに、近藤は玄関の前で立ちすくんでいた。 深呼吸を何度もして、震える指を押さえつけるようにしてやっとのことでチャイムを押すことができた。 ピンポーン チャイムの音が響き、中からはーい。という声が聞えたことで、緊張がピークに達した近藤はごくりと唾を飲み込んだ。 がらりと扉が開いた瞬間に、近藤は勢い込んだ。 「チョコレートをください!!」 「帰れ」 両手を突き出し大声で懇願する近藤に、妙はにこやかに冷たく言い放った。 今日は二月十四日。 セント・バレンタインデーであった。 モテない男がもっとも燃える日である。 今日、この日に、何が何でもチョコが欲しい。 チョコが貰えるか貰えないかでは天と地の差があるのだ。 近藤は燃えていた。 本命のいる今、欲しいのは妙からのチョコだけだった。 もちろん他の人からも欲しくないと言えばウソになるが、一番は本命である妙からのチョコが欲しかった。 何が何でも欲しかったのだ。 「なんで私がチョコをあげなきゃいけないのよ」 「むしろあなたからの愛が欲しいんです」 「てめぇに愛なんざ、欠片もねーよ」 「言っときますが簡単には諦めませんよ、俺は!!」 「いいかげんにしろォォォ!!」 短気な妙は簡単にキれ、右腕を大きく振りかぶる。 みごととしか言うことのできない右ストレートが近藤の頬にヒットする。 ドシャァァ 近藤が派手な音を立てて吹っ飛ぶ。 地面に伏している間に妙は玄関の扉をぴしゃりと閉めた。 おまけにカギをとかける音まで聞こえてくる。 「お妙さぁぁぁん!!」 早々と復活した近藤が叫びながら玄関の扉をガンガンと叩くも、中からは何の反応もない。 それでも諦めずに何度もチャイムを押している近藤に、聞き慣れた声がかかる。 「何やってんだよ、近藤さん」 振り向くと、そこには土方と沖田が立っていた。 見廻り中なのだろう、二人とも隊服を着ている。 だが、重要なのはそんなことではなく。 「ななななななななぁ、二人とも・・・」 近藤が震える指で指し示したのは土方と沖田が持っている可愛い包装紙の箱だった。 明らかにチョコレートであるそれを、土方も沖田も両手に余るほどの数持っていた。 「それって・・・それって・・・・チョコレート・・だよ・・・ねぇ?」 思わず声までどもってしまった近藤を二人は見返す。 「何か見廻り中にやたら貰ったんだよ」 こんなにあったら仕事の邪魔だっつーのに・・・。 土方は両手いっぱいに抱えてるチョコレートの山を邪魔そうに持ち直す。 貰った端から包装紙を破きチョコレートを食べている沖田は、食べるのに忙しいらしく無言でうなずくだけだった。 ふるふると振るえる近藤に、土方も沖田も首をかしげた。 「どーしたんですかィ?」 「この・・・」 「近藤さん?」 「このモテ男どもめぇぇぇ!!!」 近藤はそう叫びながら二人の元から走り去った。 なぜか涙が止まらないので涙を拭きながらとにかく走ったのだった。 謎の捨て台詞を残して走り去る近藤を、土方と沖田はあっけにとられて見送った。 END ---------------------- 近妙ですよ。まぎれもなく近妙ですよ。 近藤さんがモテないのは公式なのでバレンタインデーは切実。 つか、男所帯である真選組ではチョコの数が男の価値を決めると思う。 近藤はストーカーがデフォなので、報われないのが好きなんです。 お妙さんが近藤さんの良さに気づくのは3年後くらいだと思ってますからね! なので、今現在は全然ラブくなくて私的にはオッケーなんです。 ---------------------- |