休日の過ごし方




「土方さん、腹が減りやした」

土方の平和な昼下がりを台無しにしている張本人がおもむろに口を開いた。
先程までは大人しく昼間のお笑い番組を見ていた沖田だったが、番組の終了と共にテレビに興味を失ったらしく昼飯の催促を始めた。
その声に土方は顔を上げることなく新聞の続きを読みつづけた。
せっかくの休日が沖田のせいで台無しになっていることを少しは理解してくれと思った。

今日は、土方も沖田もオフだ。
土方は久しぶりに一人の静かな休日を満喫しようと思っていたのだが、昼前になぜか沖田が訪ねてきたのだった。
しかも、手土産も持たずに。
土方が適当なことを言って相手を追い返そうとする前に、沖田が強引に家に上がってきたのだ。
その時点で、土方の静かな休日を過ごすという小さな願いは脆くも崩れ去ったのだった。


「うるせぇよ、総悟」
発言した相手を無視するのは性分にあわない土方は、沖田に返事だけはした。
だが、視線は相変わらず新聞に注がれたままだ。
土方の座るテーブルの向こう側、テレビから一番近いところで、沖田は寝っ転がりながらテレビを観賞している。


「聞いてますかィ、土方さん。腹が減りやした」
「たく。しょーがねーなー」
テレビのチャンネルを適当に変えながら催促する沖田を、いいかげん無視をするのも面倒になってくる。
しぶしぶながら立ち上がり、土方は台所へと向かった。
何かあったか?と思いながら冷蔵庫を開けるが、碌なモノが入ってなかった。
そういえば昨日買い物へ行き忘れたことを思い出した土方は、溜息をつきながら冷蔵庫の扉を閉めた。
そして、シンクの上の戸棚を開けるとそこに置いてあるカップラーメンを取り出した。
種類をチェックすると、塩味と味噌味しかない。
これも今度買っておかないとダメだな。と思いながら土方は台所から隣の居間にいる沖田へと声をかけた。
「塩と味噌とどっちだ?」
「またカップラーメンですかィ」
「人ン家でタダ飯食うくせに文句言うんじゃねぇ」
土方は右手に持っていた味噌のカップラメンを沖田へと投げつける。
当たってもたいしたダメージにはならない事は分かっているが、土方は思わず投げずにはいられなかった。。
当然と言うべきか、沖田は飛んできたカップラーメンをこっちを見ていないにも関わらず、あっさりとキャッチする。
それを目の端で見た土方は内心で舌打ちをした。

やかんに2人分の量の水を入れ火にかけてから居間に戻ってきた土方は、畳に座り新聞の続きに目を通す。
テレビが消えている居間は、静けさを取り戻していた。
沖田は体を起こし、すっかりと冷えたお茶をすすっている。
「たまには手料理を作ってくれてもいいじゃねぇですかィ」
一気に飲み干した沖田はそう言って、湯飲みをテーブルへと置く。
土方は沖田の言葉に軽く眉を上げた。
どこかカチンときた土方はそのまま無視することにした。
新聞を読み終え脇に置き、半分ほど残っている湯飲みに手を伸ばす。
土方のお茶もやはり冷えているのだが、そのまま捨てるのはもったいないからだ。
「だったら、料理の得意な女のところにでも転がりこめばいいだろーが」
さきほどカチンときたそのままの感情で土方は返した。

そうだ。そうすればいいのだ。
そうすれば土方の優雅な休日は守られるし、沖田の希望もかなう。
なぜ沖田はわざわざ休みのたびに自分の家に来るのか。そちらの方が土方には不思議だった。
土方が内心で納得している側で、沖田は土方の言葉を聞いて一瞬動きを止めていた。
テーブルの向こう側に座る土方をまじまじと見つめる。
そして、おもむろに口を開いた。


「もしかして土方さん、昨日俺が逆ナンされたの気にしてんですかィ?」

思いっきり図星を付かれた土方は、すすっていたお茶を飲み込むのを失敗した。
器官に入ってしまい、げほげほとむせる土方に沖田はずりずりとにじりよる。
「おまっ・・・いきなり何言ってんだよ?!!」
「そーゆーことじゃないんですかィ?」
苦しいため涙目になった土方は咳き込みながらも、沖田を睨みつける。
だが、沖田はにやりと意地の悪い笑みを浮かべている。
図星を付かれた居心地の悪さからか、土方は沖田の顔を見ていられずにぎこちなく視線をそらす。

「だから朝から機嫌悪ィんでしょ」
「てめっ・・・ふざけたこと言ってんじゃねーぞ!!」
沖田の言葉に反射的に言い返した土方は、沖田との距離が思っている以上に近いことに内心動揺する。


今日機嫌が悪いのはせっかくの休日が沖田のせいで満喫できないからだ。
決して昨日沖田が逆ナンされていたからではない。
大勢の女に囲まれた沖田を見て胸クソ悪い気分になったのは事実だ。
だが、それが原因で機嫌が悪くなるなんてことはあるはずがない。
ではなぜ、こんなにも沖田との距離が近いことに動揺するのか。

土方はぐるぐるとする自分の思考に訳が変わらなくなりそうだった。
固まってしまった土方を現実に戻したのは、やはり沖田だった。

「やきもちですかィ、土方さん」
「なっ・・・!!」
土方が否定の声を上げる前に、沖田はさらに土方に近寄る。
沖田がどこか楽しげなのが土方には理解できなかった。

「そんな土方さんに、俺の好みのタイプを教えてあげましょうか?」
「別に・・・関係・・ない」
「あれー?知りたくないんですかィ?」
思わず詰まった土方に気をよくした沖田は、さらに楽しげに笑う。
そして、ゆっくりと口を開いた。


「俺が好きなのは、短気で、マヨ中毒で、サボってるとすぐに斬ろうする人・・・」


目を見開いて、自分を凝視する土方を沖田はゆっくりと封じ込める。




「アンタのことですぜィ」





居間の隣にある台所から火にかけたやかんが沸騰したらしく、しゅんしゅんと音が聞こえてきたが二人とも聞こえないふりをした。




 END






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沖土ってホント難しい・・・(溜息)
無自覚な土方さんと確信犯な沖田です。

サイトを回ってると料理が上手な土方さんが多かったので
料理の出来ない土方さんにしてみました。
これはこれでいいかもって思いました。

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