約束はきちんと守りましょう




ぐだぐだと長い担任の諸注意も終わり、たったいまから春休みになった。


昨日夜遅くまでゲームをしていた土方は大きくあくびをした。
いつも一緒に帰っている近藤は、今日は用事があるらしく、HRが終わったと同時に教室を出て行った。
同じく沖田とも共に帰っているが、こちらはクラスメートの山崎となにやら騒いでいる。
どうやら沖田は、山崎の通知表を奪おうと攻防を繰り広げているようだった。
山崎はテストの出来が悪かったらしく、必死に防いでいるが、いかにせん相手が悪い。
山崎の通知表が沖田の手に落ちるのは時間の問題だろう。
その様子を、土方は目の端にうつしていた。
教室から出て行くクラスメートに挨拶をしていると、再びあくびが出た。


試験休み中で活動停止していた部活動も明日から再開される。
体を動かす方が性にあっている土方は部活動の再開が待ち遠しかった。
そういえば、明日の集合は何時だったかな。と考えながら机の横にかかっている鞄に手を伸ばした。
鞄に配られた通知表やプリント類をしまった所で土方の元へ沖田がやってきた。
沖田の様子が機嫌良さげなのを見ると、やはり山崎は沖田に通知表を奪われたようだ。

「土方さん、通知表見せてくだせえ」
「・・・いいけど。お前のも見せろよ」
土方はすでにしまっていた通知表を鞄の中から取り出し、沖田へと差し出した。
受け取られると同時に渡された沖田の通知表を土方は開いた。
いつもなら体育だけが5で、後は1と2が並んでいる通知表だが、今回は1が一つもなく、科目によっては3が付いているものまであった。
「どうでィ?」
沖田は土方の通知表を開くことなく、土方の反応を伺っていた。
瞠目した土方は通知表をたっぷり30秒以上は眺めてから、持ち主の沖田へと視線を向けた。
「お前、コレ…」
「正真正銘、俺のですぜィ」
得意げな沖田をよそに土方は再び通知表に目を落とす。
何度見ても、やはり1はない。
信じられないと小さく呟く土方に沖田は嬉々として言った。

「・・・じゃ、明日にしやしょう」
「は?」
「だから、大江戸ワンダーランド」
軽く混乱した土方は、訳の分からないことを言い出した沖田を見返す。
そんな土方の様子に沖田も戸惑いを見せる。
「え、もしかして土方さん約束忘れてんですかィ?」
「・・・約束?」
「・・・・・マジでか?!」
驚愕した様子の沖田からは嘘の匂いはしなかった。

「通知表で1がなかったらワンダーランドに行くって約束したじゃないですかィ」
土方は必死に記憶を呼び戻してみると、なんとなくそんなことを言ったような気もする。



テスト準備期間中に入り、部活動が停止になった先月末。
沖田がどこから持ってきたのか、読んでいた週刊誌に大江戸ワンダーランドの特集が載っていたのだった。
その記事をたっぷり3回は読み返した沖田は、目を輝かせながら土方へと向き直った。
『土方さん、試験休み中にココに行きやしょうぜ!』
『却下』
沖田の隣でゲーム雑誌を読んでいた土方は、雑誌から目を離さずに言い切った。
しかも返事はかなりおざなりで、会話に集中していないのは丸分かりだった。
『なんでですかィ』
むっとした沖田は
『行きたくないから』
『俺が行きたいんでさァ』
『・・・・』
『土方さん!』
面白い記事でも見つけたのか返事すら返さなくなった土方に、沖田は体を起こし土方の雑誌を無理やり閉じた。
『何すんだよ』
『俺の話、聞いてやす?ワンダーランドに行きやしょう!』
『分かった分かった。じゃあ、お前が次の通知表で1が一つもなかったら行ってやるよ』
『何ですかィ、その交換条件?!』
『ワンダーランドに行きたいなら、テストをがんばれ』
それだけ言うと、土方は再び雑誌を開き、続きを読み始めた。
沖田は土方の態度に頬を膨らませた。
『絶対、1脱出してみせまさァ!!』
『楽しみに待ってるよ』
沖田が決意を固めている横で、土方はどーでもよさげに言葉を返した。



「そ、そういえば、そんな事言ったような・・・」
たしか、その頃は新作のゲームの発売が近くて、心はそちらに向いていたのだったような・・・。
自分の過ちを思い出した土方は、沖田相手に適当な対応をした数週間前の自分を殴りつけてやりたい気分に陥った。
「じゃ、思い出したところで明日の8時に駅で待ち合わせにしやしょう」
たぶん寝過ごすんで8時に駅に着けるように迎えに来てくだせェ。
さらりと言い放つ沖田に、土方は諦めの気持ちで頷いた。


「明日から部活解禁なのに・・・・」
諦めきれずに小さく呟いた声を沖田は耳ざとく拾い、やれやれとばかりに息をはいた。
「何言ってんですかィ。俺との約束の方が先ですぜィ」
「わーったよ、交換条件出した俺が悪ィよ。諦めて一日付き合えばいーんだろ。・・・で?何人で行くんだ?」
「何人って?」
「は?近藤さんたちも誘うんだろ?」
きょとんとする沖田は破壊力抜群の発言をした。
「2人で行くんですぜィ」

「はあぁ?!!!」

もう生徒のいなくなった教室に土方の声は大きく響いた。
「声、大きいですぜ、土方さん」
「んなこたぁ、どーでもいい!!」
眉根を寄せた沖田に、土方は詰め寄った。
「なんで男2人でワンダーランドに行かなきゃなんねーんだよ?!引くだろうが?!寒いだろうが!!!」
「そんなの、デートだからに決まってまさァ」
大真面目に答えた沖田に土方は絶句するしかなかった。
「・・・デ、デートってお前・・・」
「俺は始めからデートのつもりでした」
土方さんが今学期の通知表で1脱出したら行ってくれるって言ったからテスト頑張ったのに・・・。とまで言われて、土方はぐうの音も出ない。
「・・・もう好きにしてくれ・・・」
力のない声でそれだけを言うのがやっとだった。



「観覧車の中で、手つなぎましょうね」
にっこりと微笑む沖田に土方はトドメを刺された気分になった。




 END






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きっと、土方さんは遊園地内で不必要に
イチャイチャすることを強要されることでしょう。
合掌。


遊園地名にすごく頭を悩ませました。
結局は適当に名付けちゃったけど。
TDLみたいに〜ランドにしたかったのです。

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