そういう沈黙だったのだ。
そういう雰囲気だったのだ。


そんなの、言い訳にしかならないけれど。




        好奇心は猫を殺す



近藤はここ最近の土方の様子がどこかおかしいことに気づいていた。
やけによそよそしく、時にはわざとらしく沖田を避けるのだった。
そんな行動がもう1週間近く続いている。

屯所にいて、特に何もすることがないときは近藤の自室になんとなく3人が集まるというのが常だった。
だが、土方はそれすらも最近避けている。
たとえ第三者がいたとしても、土方は沖田と同じ空間にはいたがらなくなっていた。
避けられている沖田の方も特に騒いでいないことも手伝って、隊士たちの間で変な噂が数多く行き交った。

最初は放っておいた近藤も、1週間も続く土方の徹底した態度に眉根をひそめるばかりだ。
これ以上は隊士たちへの士気へも関わるということで、問題の早期解決が望まれていた。



「ねぇねぇ、総悟くん。トシと喧嘩でもしたの?」
近藤の自室へ用もなくいつものようにふらりと訪れた沖田に、近藤はなんと切り出そうか散々迷って口を開いた。
もともと策を立てることが苦手な近藤は、結局直球で聞いた。
最初は近藤の言うことに目を丸くした沖田だったが、すぐに事情を飲み込む。
「喧嘩なんかしてやせんぜ」
それだけ言って、ずずと音を立てて茶も飲む沖田に、近藤は言葉に詰まる。
ふと気づいたように顔を上げるとカレンダーを見ながら、沖田は口を開いた。
「そういや、もう1週間かィ。」
「ああ。お前らを勘ぐるような変な噂も立ち始めたし、ここらで仲直りしてほしくてなぁ・・・」
「そうは言われましてもねェ。オレは一方的に避けられてるだけですし」
沖田の言葉に近藤はガリガリと頭を掻く。
「なんでトシのやつ、あんなに機嫌悪いんだろうなぁ・・・」
「さあ?」
近藤の言葉に、沖田はにこりと笑う。

「なんででしょうねィ?」

声に気負いもなくどこか他人事のように話す沖田に、近藤は内心でため息をついた。
どちらが悪いかはわからないが、これは問題の根が深そうだ。
そして、自分が口を出すべきものではないことを悟る。
隊士たちの士気が下がらないうちに仲直りしてくれるといいなぁ、と近藤は諦めぎみに茶をすすった。

そんな近藤を目の端に眺めながら、沖田は腕を頭の後ろで組み、机にかるく寄りかかるような格好で開け放たれたふすまの外を眺めた。
空は青く、鳥の声が聞こえた。

「あの人も、ちょっとは思い知ればいいんでさァ」

小さく、暗い声でつぶやいた声は誰の耳にも届くことはなく、消えていった。






沖田は土方のことが好きだった。
「好きです」と告白までしたことがある。
土方はそれを軽く受け流していたが、それでも沖田の気持ちを知っていると思っていた。
だが、1週間前のあのときに、沖田は土方が沖田の言葉をちっとも信じていなかったということを知った。
少しも沖田の気持ちを考えていなかったとを知った。
だからこそ、土方はあれほどまでにうろたえているのだ。

唇が離れたときの土方の顔が忘れられない。
唖然としていた。
ひどく驚いた顔をして、沖田の顔をまじまじと見つめたのだ。
そして、はじかれたように立ち上がり、逃げるように部屋から出て行ったのだ。



もっともっと、うろたえればいい。
もっともっと、逃げればいい。
もっともっと、オレのことで頭をいっぱいにすればいいのだ。
一度近づいてしまった距離を、離すつもりなんか沖田にはさらさらなかった。
土方はそのことを思い知るべきなのだ。


















土方は不機嫌そうに屯所の廊下を歩いていた。
口元にはもう短くなってしまったタバコ。
土方のここ1週間で喫煙の量は激増し、健康面での注意を受けることもあったが、それは土方にとってはどうでもいいことだった。

なぜなら、現在土方は出口のない問題に、頭を悩ませていたからだ。



最初はいつものように、くだらない話をしていた。
副長の座を譲れとか相手の揚げ足を取ったりと、いつもの掛け合いだった。
土方の神経を逆なでするようなことを沖田はさらりと言い、土方はそれにいちいち怒鳴り返す。
なんのタイミングだったか、ふと会話が途切れた。

夕日の差す部屋で、沖田を見つめると沖田の髪が金色に光るのがまぶしくて目を細めた。
ぶしつけに見つめる視線に気づいた沖田はこちらに視線を向ける。
目が合った土方は、沖田としばし見詰め合った。
しばらくすると、おもむろに沖田が距離を詰めてきた。
ゆっくりと近づいてくる沖田に何をされるかなんとなく予想がついたが、特にやめさせようとは思わなかった。
逆らうことなく目をつぶった土方にとって、沖田のそんな行動でさえもいつもの掛け合いの延長でしかなかったのだ。
・・・唇が触れるまでは。



触れあった唇は柔らかく暖かかった。
すぐそばで吐かれた沖田の吐息の熱さに、土方はようやく知った。
沖田の気持ちを。

まさか、あんな強い感情を持っていたなんて知らなかったんだ。
・・・そんなの言い訳にしかならないけれど。
けれど、沖田の言葉を軽く考えていたのは事実で。
好きだと言われたことはあっても、それはいつもの掛け合いの一部だと思っていたのだ。




触れて、初めて分かったのだ。
アイツが本気だったことを。
あのとき触れた唇は熱く、沖田の内なる声が聞こえた気がした。
ただただ真摯な感情がそこにはあった。



「・・・くそっ」



これはきっと自業自得だ。
知っていたはずの感情にうっかり手を差し伸べてしまった。
沖田の本気を認める覚悟もないままに。
触れたらどうなるかも知らずに。


土方は、近づいてしまった沖田との距離にただ逃げるしかなかった。






転がり始めた賽がどの目で止まるか、それは土方自身にもわからなかった。



 END






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  覚悟もないままに触れてしまったら思わぬ反撃をくらった。
  近づいてしまった2人の距離に、ただ僕はうろたえるだけ。


ちゅーの話です。
そろそろちゅーする話が書きたいぜ!と思って勢い込んで書いてみました。
・・・もっと艶っぽい話が書けないものかと、小一時間(ry

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