1.笑顔でおはよう




* side K *

天気は快晴。風は心地よく、空気は気持ちいい。
近藤は毎朝のいつもの時間に勢い良く家を飛び出した。
自転車にまたがりペダルを強くこぐ。
この自転車に乗るのも二日ぶりだ。
見慣れた町並みを自転車でかっ飛ばし、学校へ向かう。
途中、部活の後輩やクラスメイト達に挨拶をしながら追い越していく。
慣れた感覚が懐かしく、上向きの気持ちがさらに上を向く。
機嫌よく自転車をこいでいると、前方に見慣れた二人組みを発見する。
幼馴染兼クラスメイトの土方と沖田だ。
「トシー!総悟ー!」
二人がそろってこちらに振り向くのと、近藤が二人に追いつくのはほぼ同時だった。
「おはようごぜえます、近藤さん」
「おはよう、近藤さん」
「おう、おはよう」
近藤はブレーキをかけ、自転車から降りて二人と歩き出す。
「風邪はもういいのか?」
「見ての通りだ!」
土方に問われた近藤は笑顔とともに答える。
ここ二日ほど、近藤は風邪で学校を欠席していた。
クラスでは体力自慢の近藤が風邪を引くくらいだから今年の風邪は悪質だとクラスで評判になった。
だが、近藤が風邪をひいた原因が近藤の妙への行き過ぎたストーカー行為のなれの果てにあると知っている土方は苦笑するしかなかった。
妙をストーキング中に、妙にばれそうになり隠れるために川へ飛び込んだと、見舞いにいった際に聞かされた土方は深々と溜息をつくことしか出来なかった。
ちなみに、見舞いには沖田も行ったのだが、茶請けを食べるのに必死で特に聞いてはいなかったらしく、学校で土方に言われて驚いていたのだった。
そんな沖田は、まだ眠いらしく半分土方に引きずらながら歩いている。
いいかげん面倒になった土方は沖田の頭を殴るが、沖田は文句を言うだけで歩みが早くなることはなかった。

「ところで、お妙さんのことなんだが・・・」
うかがうようにこちらを見る近藤に土方はやれやれと息をついた。
「・・・特に何もなかったよ」
近藤は自分が欠席していた二日間の妙の動向が知りたいのだろうが、この二日間はたいしたことはなかったように土方は記憶している。
ただ土方とて妙の一挙手一投足をつぶさにチェックしているわけではないので自信はないが、とりあえず土方はそう答えておいた。

「あ、『お妙さん』だ」
「何ィ?!!」
近藤はすごい勢いでキョロキョロと視線をめぐらし、妙の姿を探す。
「あそこですぜ」
沖田の指し示すその先には、たしかに近藤が恋してやまない志村妙の姿があった。

「お妙さーーん!!おはようございまーーす!!」
近藤は満面の笑みで妙の元へと走って行った。




* side T *


ここ二日ほど、近藤が欠席をしている。
ストーカーと化し、妙にいつも付きまとっている近藤がいないことで、妙は清々した日常を過ごしていた。
だが、それは初日だけだった。
自分が何かするたびに大げさなくらいに煩い近藤がやかましく騒いでいたのだ。
それは静かで平和で待ち望んでいたものだったはずなのに、なぜか妙は落ち着かなかった。
いつも煩い人物が側にいつ環境に慣れてしまったのだろうか。
だとしたら危険だ。
近藤がいないことで物足りなさを感じるなんて、どうかしている。
そうは思っているのだが、それでもなにかが足りないよおうな気がするのだ。


昨日とは違い快晴の天気の下、妙はいつものように弟の新八とともに学校へ向かっていた。
校門が見え、もうすぐ学校へ着く。その直前に。
「お妙さーーん!!」
おはようございまーーす!!
少し遠くから勢い良く聞こえてくる声に、妙はつっかえていた何かがすとんと落ちるのを感じた。
「お妙さーん!おはようございます!!今日もいい天気ですねー!!」
妙は拳を固く握り、声のする方へと向き直った。
そして、満面の笑みでこちらに抱きつこうとしてくる近藤にモノも言わずに一発食らわせる。
地面へと伏した近藤を放っておいたまま、妙は再び歩を進める。
側にいる土方が溜息をついているのが目の端に見えたが、妙は挨拶することはなかった。
数歩歩き、学校の門へ入る直前に、近藤の大声が聞こえた。
「好きです、お妙さん!!付き合ってくださいー!!」
そしていくら倒しても懲りないストーカーの、いつもの愛の告白を背中に聞きながら、校門を通り抜けた。


聞こえてくるいつもの声に、妙はやっと一日が始まったような気がした。




END




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久しぶりの妙さんにはしゃぐ近藤さんと
久しぶりの近藤さんにほっとする妙さん。

もうくっついちゃえよ!!

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