2.授業中にこっそり



窓から差し込む日は暖かく、沖田はこらえきれずに欠伸をした。



黒板の上にかかっている壁掛け時計をちらりと盗み見ると、時刻は11時半をやっと回ったところだった。
昼休みまではまだ30分近くもある。
とっくに授業に飽きていた沖田は溜息をついた。

ぽかぽかの陽気の下、沖田は机に突っ伏した。
このまま、授業終了まで寝てしまおうか、と半ば本気で考える。

ふと首をナナメに傾けると、黒板へと視線を向け、真面目にノートをとる土方が目に入ってきた。
窓側の列である沖田の席と廊下から2列目である土方の席とはだいぶ離れている。
真面目に授業を受けている土方を横目に見ながら、沖田はまた大きく欠伸をした。


天気がよくて、授業はつまらなくて、でも土方は真面目に勉強中。
邪魔をしてやりたいと考えた沖田は滑らかな動作でポケットから携帯を取り出す。
サイレントモードになっているため、ボタンを押しても音はしない。

<いい天気ですぜィ>

一行メールを書いて、沖田は送信ボタンを押した。



沖田が土方の方をうかがっていると、しばらくして土方の携帯が振動した。
土方は携帯を時計代わりにして机の上に置いていたらしく、振動音は沖田の耳にまで届いた。
携帯が振動をしてすぐに土方は携帯を取ったが、机の上での振動音は大きく、土方の席の近くの生徒の視線を集めてしまった。
土方はバツが悪そうに携帯に目を落とす。
音に対して反射的に土方に注目した生徒たちも、すぐに視線を黒板へと戻す。
そのまま土方を見守っているのは、内心笑い出したい気持ちの沖田だけだ。

土方は数度携帯を操ると、すごい勢いで沖田を睨みつけてきた。
そんな土方に、沖田はにやりと笑みを浮かべる。
ぎろりと、山崎なら泣いて謝ってしまいそうなほど鋭く睨まれるが、沖田にはどこ吹く風だ。
土方はひとしきり沖田を睨んでから、また黒板へと向かう。
そんな土方に沖田は再び、メールを送信した。
沖田は土方が自分の相手をするまでいつまででも、送信ボタンを押すつもりだった。

<昼寝したくなりますねィ>

再びぎろりと睨まれるが、沖田はまたにやりと笑って見せた。
すると、土方はすごい勢いで携帯をプッシュしだした。
程なくして、沖田の手の中の携帯が軽い振動を立てメールの受信を知らせる。
返事が返ってきたことに気を良くした沖田は、いそいそと開いてみた。
すると、中には土方らしい簡潔な一文があった。

<授業中だ>

あまりの土方らしい返信に苦笑しながら、沖田は再びメールを送信した。
もう無視することなく、土方は携帯を見ている。

<飽きやした>

すぐに、沖田の携帯が揺れ、返信が来たとこを告げた。

<だったら寝てろ>

<せっかくのいい天気なのに、もったいねぇじゃないですかィ>
<オレをまきこむな>
<さっきあくびしてたくせに>
<してねーよ!>
<見てましたぜィ>
<ウソつくな!!>

数度、沖田と土方の一行メールが飛び交っているうちに、だんだんとムキになって返信しだした土方を横目に見ながら、沖田は口の端が緩む。
土方がこちらを気にしているのが、楽しくてたまらなかった。

ちらりと時計をうかがうと、時計の針はもうまもなく12時になろうとしていた。
確信的な笑みを浮かべながら、沖田は携帯のボタンを操作した。

<アンタが好きでさァ>

沖田からの何度目になるのか分からないそのメールを開いた土方は、思わず動揺しイスを揺らしてしまった。
だが、それとほぼ同時に12時のチャイムが教室に響きわたる。
教師は授業終了を告げ、生徒達は日直の「起立」の合図にいっせいに立ち上がる。
礼と同時に騒がしくなる教室内で土方はひときわ声を荒げた。
「総悟・・・っ!」

少し赤い顔をしながら剣呑な雰囲気で近づいてくる土方を、沖田はにこやかに迎えた。



 END






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4時間目の授業は坂本先生による国語です。
ちなみに陸奥先生は数学教師。銀八先生は理科。

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