5.決戦は5時間目



ダルイ・・・。
平素よりもやや重い体を動かして土方は部室のロッカーの前に立った。
体がダルくて体育の授業なんかサボってしまいたい。
だが、今までも結構サボっていたせいでそろそろ出席日数がやばい。
ゆっくりと休みたいときに、どうして次の時間は体を動かさなきゃならない授業なんだ、とため息すら出そうになる。
だいたい、いつも授業をサボリたくてサボっているわけではないのに。
ほとんどが不可抗力だ。
自分が授業をサボるはめになる原因を生み出しているのはアイツなのだと思うと、今すぐにアイツを殴り倒したくなる。

なぜ土方が剣道部にいるのかというと、次のジャージを部室のロッカーに置きっぱなしにしてしまっていたため、5時間目が始まる前にわざわざ体育館横にある部室まで着替えに来ていたのだった。
他のクラスメイトはいまごろ教室で騒ぎながら着替えているのだろう。
おそらく、さきほどまで一緒にいた沖田も。
土方は自分のロッカーの前で大きく息をつく。
自分に気合を入れ、やる気を出そうとし、ロッカーの扉を開く。
やや遅めの動作でジャージへと着替えるために土方は制服のボタンに手をかけた。
そのとき、土方がいる剣道部室のドアが勢い良く開かれた。
音に反応して振り向くという動作をするのも面倒くさかった土方は、そのまま着替えを続行する。
すると、背中から声がかけられた。
「トシ?」
「・・・近藤さん」
声に振り向くと、そこには剣道部主将の近藤の姿があった。
「昼休みどこにいたんだ?探したぞ」
近藤は土方のとなりのロッカーを開き、着替えを始める。
どうやら、近藤も土方と同じく体育用のジャージを部室に置き忘れたらしい。
「探させて悪かったな。・・・昼はちょっとあってよ」
「別に急用じゃなかったし、気にするな」
言葉を濁す土方に、近藤は追及することなく流した。


Tシャツを着て、ジャージを羽織った時点で、なにやら近藤の様子がおかしくなった。
どこかぎこちない感じなのだ。
「なんだよ?」
問い掛けるように言うと、近藤はためらいを見せたがややしてから口を開いた。
「俺は偏見ないから気にしないぞ」
「? 何言ってんだ、アンタ」
むしろ暖かく見守るぞ、と力強く言葉を続ける近藤に、土方は眉をひそめる。
突然、訳の分からないことを言い出す近藤を訝しげに見遣った。
すると、近藤は先程以上に気まずそうな仕草で、自らの左の鎖骨のあたりを指差した。
土方はそんな近藤の行動に首をひねりながらも、近藤がしていたように、自らの鎖骨に手をあてた。


その瞬間、さきほどまでの記憶がよみがえった。


そこは間違いなくさきほど沖田が口付けたあたりで。
近藤が指し示すということは、傍目にも分かるほどに目立つ赤い印があるのだろう。
さきほど沖田に付けられたばかりである赤い印が。
その事実に気づき、土方は瞬間的に顔を赤くした。
それが恥なのか、怒りなのか、土方自身にもよく分からなかった。

居た堪れなくなり、とてもではないが近藤の様子などうかがえない。
自分をごまかすように急いでジャージのチャックを引き上げ、それを隠す。
「あのヤロウ・・・・っ!!」
近藤は低く唸る土方を前にとまどうが、土方には近藤を気遣う余裕はなかった。
その感情が本当に怒りなのか、土方にも良く分からないのだ。
とにかく恥ずかしさと怒りで感情が爆発しそうだ。
全ての元凶を沖田とすることで、自分を保つ。
土方はダルくて下降していたやる気を急上昇させ、次の体育の時間で沖田をぶちのめしてやると固く誓った。
いっそのこと、殺してしまおうか。それもかまわない。
手始めに目の前にあるロッカーの扉を乱暴に閉めた。
ついでに蹴りも入れて八つ当たりをすることも忘れなかった。



 END






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沖土なのに沖田がいない・・・。

近藤・土方・沖田は幼馴染トリオです。
ちなみに、3人とも剣道部所属。

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