7.偶然見ちゃった ぽかぽかした陽気に誘われて、このまま5時間目の授業なんてサボってしまおうか、とぼんやりと考えながら沖田は廊下を歩いていた。 沖田はぺたぺたと足音を立てながら歩くのが好きだ。 自分がこう歩くと、必ず土方がイヤな顔をするからだ。 ぴくりと眉をひそませて、まるで小さい子供に諭すような声で注意をするときの土方が、沖田は好きだった。 自分の行動の半分は土方の反応が見たいがために行われているのだろう。 これも一つの愛の形だと沖田は思っている。 まったくもって愛ってのはムズカシイ。と欠伸をしながら自教室に向かう沖田の耳に、小さく声が聞こえた。 沖田は立ち止まることなく、声が聞こえた方に顔を向ける。 自分を呼んでいる声ではないようだったが、なんとなく反射で窓の向こうにいる人影に目を凝らした。 そこにいるのが土方だと分かった瞬間、沖田は思わず息を飲み込んだ。 そこは日当たりが悪いために、普段あまり人の来ない中庭の端。 うつむき加減の髪の短い少女が何か土方に言っているのが分かる。 距離があるため、何と言っているまでは分からなかったが、沖田には少女が土方に何を話しているのかが容易に想像できた。 うつむいて手をぎゅっと握っている少女。 緊張で微かに震えているのように見える。 沖田のいる場所からは土方の顔は見えない。 土方がどんな表情をしているのかが沖田からは全く見えないのだ。 もしも土方が喜んでいるのだとしたら。 恐怖で沖田の背筋に冷たい汗が落ちる。 土方が少女に何と言葉を返すのか。 聞くのが怖くて、沖田は逃げるようにそこを後にした。 授業開始5分前のチャイムが聞こえてはいたが、土方は特に急ぐこともなく階段を上っていた。 結局、食いっぱぐれてしまった弁当に想いを馳せながら、軽くため息をついた。 昼飯は食べ損なうわ、女の子には泣かれるわで土方はだいぶ精神を消耗させてしまった。 5時間目をまともに受けられるかの自信はまったくなかった。 先生が急な病気かなにかで自習になれば弁当が食べられることを思うと、恨みは無いが社会科教諭の不幸を心から願ってしまう。 バカなことをつらつらと考えながら、自教室のある階まであと1つというところで、 土方は突然、腕を引かれた。 バランスを崩し、転びそうになるのを支えられた土方は、転びそうになった原因の人物へ睨みつけるように向き直った。 文句を言おうと口を開いたとき、土方はその人物が沖田だと気づいた。 「・・・・総悟」 のどまで出かかった文句を無理やり飲み込んで、土方は咎めるように沖田の名を呼んだ。 何も言わず深刻そうな顔をしている沖田に、様子が変だと土方は思った。 「総悟?」 怪訝な表情で呼びかける土方に、沖田は何も言わずに土方の腕を掴んでいる手に力を込め、引く。 訳も分からず、土方が沖田に連れてこられたのは階段近くの音楽室だった。 そこは音楽の授業のクラスはないらしく、しんとしていた。 沖田が後ろ手に閉める扉の音がやけに大きく響く。 やっと腕を放してもらえた土方は改めて沖田の方に向き直り、問い詰めようと口を開いた。 「総悟、お前なぁ・・・」 だが、沖田は土方の言葉を聞くことなく、土方へと抱きついた。 沖田は土方の胸に顔を押し付け、腕を脇の下から背中へと回す。 土方は衝撃に思わず足元がふらつくが、倒れることなく踏みとどまることができた。 「っ!離れろよ総悟!」 驚いた土方は自由な両手で総悟の体を押し返そうとする。 しかし沖田はその小柄な体にどこにそんな力があるのか腕はがっちりと土方の体に回っていてはずすことができなかった。 「おい!聞いてんのか!!」 今度は沖田の頭を軽く殴ってみたが、沖田は土方から離れるのを嫌がるように、ますます強く抱きついてくるだけだった。 何を言っても自分から離れない沖田に、土方は大きくため息をついた。 「・・・お前が変なのは今に始まったことじゃねーが、なんなんだよ。さっきから」 諦めたように力なくうめく土方に、それでも沖田は何を言わない。 土方は沖田からの反応を待ってみたが、沖田に口を開く気配はなかった。 再び大きく息をついた土方は、自分の体重をあずけるためにすぐ後ろにあった黒板へと、背中を預けた。 「見てたのか」 土方の胸に顔を押しつけている沖田は、その言葉に小さくうなずいた。 やっと帰ってきた反応に、土方は少し安堵する。 沖田が変なのは今に始まったことではないが、昼休みまでは比較的普通だったのだ。 その急変には何か原因があるとしか考えられない。昼休みに何があったのか。 簡単に答えは出た。 土方は迂闊だった自分に内心で舌打ちをする。 おそらく見ていたのだろう、沖田は。 全てではないにしてもその一部を。 土方は自分の胸から一向に顔をあげようとしない沖田の頭を優しくぽんぽんと2回叩いた。 そのまま沖田の頭を抱き込んでから、土方は口を開いた。 「断ったぞ」 ぴくりと沖田の体が震える。 ほんの小さな動きだったが、ここまで密着していれば土方にはバレバレだった。 土方はもう一度沖田の頭を優しく2回叩く。 「アンタが好きでさァ」 沖田が土方に会ってから初めて口を開いた。 土方の胸から顔を上げることなく言ったため、少しくぐもった声だった。 それに対して土方は優しく返す。 「俺もだよ」 普段は絶対言わないし、言わなくても分かっているだろうが、今は別だ。 こんな時くらいは素直に言ってやろう、と土方は思った。 「アンタは俺のものでさァ」 「そうだな、お前のだよ」 続いて言った言葉も肯定する土方に、思わず沖田は口を噤む。 また沈黙する沖田に、さてどうしたものかと土方が思った、そのとき。 頭上にあるスピーカーからチャイムが鳴る。 2人しかいない音楽室に5時間目の授業の開始を告げる合図が鳴り響いた。 すごく時間がたったような気がしていたが、あれからまだ5分しかたっていなかったらしい。 「・・・授業、どーすんだよ」 今から行けば、担当教諭が来る前に教室へ入れるだろう。 授業開始のチャイムも土方の言葉も聞こえているだろうにも関わらず、沖田の腕に込められている力は一向に弱まらない。 「しょーがねぇなぁ、お前は」 土方はそういうと、沖田の体を改めて抱きしめた。 END ---------------------- この後、2人は雪崩れ込むことでしょう。 沖田は事後に何があったかどう答えたかを根掘り葉掘り聞くだろうと思われます。 つか、土方さんの保護者っぷりに脱帽。 土方さんは沖田に甘すぎる。でもそんな沖土も好き。 それにしても3-Zはおもしろい!! 基本的にパラレル大好きなんで、すごく楽しいです〜vv ---------------------- |