なんて自分勝手。 ごめんねシンデレラ オレは少し高台にある小さな公園にいた。 ブランコの回りにある柵にゆるく腰掛けながら、高台からみえる景色をぼんやりと眺めていた。 ゆっくりとした動作でポケットの中の携帯を取り出す。 電源の入っていないソレはただの二つ折りの物体。 それを無意味の開け閉めを繰り返す。 いま、何時なのだろうか。 携帯を時計代わりにしているオレは、現在の時刻もわからない。 ただ、西日が赤くまぶしいことから夕方だってことは分かる。 でもそれだけだ。 涼やかな風が髪をゆらす。 もうすぐ、世界は夜になろうとしている。 約束の時間は2時だったから、とっくの昔にすぎているだろう。 今ごろ南は何をしているだろうか。 時間になっても現れないオレを怒っているだろうか。心配してくれているだろうか。 この物言わぬ携帯に、何度連絡を入れようとしてくれただろうか。 そして、繋がらない事実に何を思ったのだろうか。 物言わぬ携帯を握り締める手に力を込める。 馬鹿なことをしている自覚はある。 好きで、好きで、好きで。 自分の気持ちに縛られて身動きが取れなくなってしまった。 南が何を考えているのか、分からない。 全然、分からないのだ。 ただ、オレばっかり苦しくて。 なんて勝手なんだろう。 自分で自分が嫌になる。 勝手に不安になって、勝手に南を試している。 だけど、本当に、心の底から、オレが知りたいのはただこれだけ。 南はオレを探してくれているだろうかってことだけ。 ふと後ろで人の気配がした。 走ってくる足音はオレから少し離れたところでピタリと止まった。 (南だ) 来てくれたことにオレは不謹慎にも笑い出したくなるくらい満ち足りた気分になった。 背中で感じる南が明らかに怒りのオーラを発しているのにもかかわらず、だ。 「文句があるならオレに直接言えよな」 背中から聞こえる南の言葉にオレは小さく息を呑む。 その声に怒りの色はなかった。 ただ少し堅く、いつもより低めなだけだった。 「・・・文句なんかないよ」 オレはゆっくりと立ち上がりながら振り返き、そう言った。 そう。文句なんかない。 ただ、オレが勝手に不安になってるだけ。 オレが臆病だから、南を信じることができないだけ。 「あっそ・・」 南はオレをちらりとも見ずにそうつぶやいた。 久しぶりに見た南は少し不機嫌そうでポケットに手を入れていた。 その目はオレを見ることはなく、足元に散在するじゃりに注がれていた。 「ホント、勝手だよな。お前」 南の声が少し怒気のこもったものになる。 オレは言葉を返せない。 勝手なのは本当のことだから。 「勝手に不安になってさ。勝手にいなくなってさ」 「・・・お前ばっか」 ふと聞こえた言葉にオレは思わず南の顔を見つめる。 今、南は何を言おうとした? 風に消されて最後まで聞こえなかった言葉。 何を言おうとしていた? 「オレばっか・・・何?」 南の方へと足を運ぶと踏まれたじゃりが音を立てる。 相変わらずオレを見ない南へオレは少しずつ距離を詰めた。 「お前ばっか不安がってんじゃねーよ」 そのとき唐突に、『もしかして』と思った。 もしかして南も、オレのように不安になったりするんだろうか。 もしかして南も、オレの言動の一つ一つに眠れなくなるくらい胸を痛めたりするんだろうか。 もしかして、南も。 いくつもの『もしかして』が頭の中をぐるぐる回る。 オレは南のすぐ前まで来るとぴたりと足を止めた。 すぐそばにオレがいることは分かっているだろうに、やっぱり南はオレの方を見ない。 それでもいいと思った。 南がオレを見ないなら、無理やりでもこちらに向けさせればいいのだ。 ふと思ったことに、今までぐるぐる悩んでいたことがふっとんだ。 そうだ。 オレはいつだって、そうしてきたのだ。 忘れていたこんな単純なことを思い出したオレは、素直に南に謝ることが出来た。 「ごめんね」 「オレは怒ってんだぞ」 南の声はやっぱり怒気をはらんでいたけれど。 「うん。ごめん」 「約束の時間になっても来ないし」 「ごめん」 「携帯も繋がらないし」 「うん」 「すっげー心配した」 「・・・うん」 「・・・・・・・」 「心配かけてごめんね」 「・・・・・・・」 「でも探してくれてありがとう」 見つけてくれてありがとう。 ありったけの気持ちを込めて、オレは南を抱きしめた。 「責任取れよ、バカ」 その声に、オレは体を抱く腕に力を込める。強くする。 「・・・お前しか見えなくさせたくせに」 オレの腕の中で小さくつぶやいた声に、オレは泣きそうなくらい嬉しくなった。 信じてもいない神に今なら素直に感謝の言葉が言えそうだった。 どこか遠くで鐘のなる音がする。 近くに学校でもあるのだろうか。 でも鐘が鳴り終わっても、南はオレから離れなかったし、オレも南を離したくなかった。 もしもこれが12時の鐘で。 もしも南がシンデレラだとしても。 君を離したくないと心から思った。 END ---------------------- ごめんね、シンデレラ キミは帰りたくてもボクはキミを離せないよ 初の千南小説です。 一体、私の中で千南はどういうポジションなのやら。 千石はいつもは自信満々のくせに時々臆病になるといい。 南を振り回しているつもりだけど、本当は南に振り回されてるといい。 ---------------------- |