窓側の席は先日までは暖かくてよかったが、初夏になったこの時期には少し辛い。 差込む日差しが強くて、目にまぶしい。 だからってカーテンで締め切るにはもったいないほどのいい天気。 窓際ラプソディ 光が反射して見づらい黒板を板書するのにも少し飽きてきた南は、持っていたシャーペンを無造作に放り投げ頬杖をついた。 ふと聞こえた歓声に窓の方を向くと、南からちょうど見える位置にあるバスケットコートに生徒が集まっていた。 どうやらゲーム中らしく案外狭いコートの中では激しいボールの取り合いが起こっていた。 (・・・あ) 攻めあぐねている生徒に見慣れたオレンジ頭がマークしているのがよく分かった。 髪が夏の日差しに反射していつもより白く輝いている。 (千石) ボールを持っている相手の顔まではよく分からないが、そいつは千石よりも一回りも大きい生徒だ。 けれど千石と慎重に距離を取るその行動で、その生徒は千石の敵ではないことが南にも明白だった。 ボールをドリブルさせて距離を測る相手。 手を広げてマークする千石。 こんなに離れた位置にいる南はなぜだか、千石の目がすっと細くなるのが分かった気がした。 「行け、千石」 思わず力を込めた呟きが口からもれた。 その声が聞こえたかのように、千石は動いた。 千石を抜こうとした相手からあっさりとボールを奪い取る。 相手コート内で簡単にマークを振り切り、ゴール下まで走りこみフリーになったところで悠々とシュートを決める。 「・・・よし!」 思わず声が出た南は小さくガッツポーズをとる。 見ると、千石は満面の笑みでチームメイトとハイタッチをしていた。 敵チームの悔しそうな顔になんとなく我が事の様にいい気分になる。 再びボールがコート内に入り、ゲームが再開された。 ここからではスコアボードの点数までは見えないが、おそらく千石のチームが勝っているのだろうと、なんとなく思った。 「・・・南!」 突然聞こえた声に驚いて弾かれたように振り向くと、教壇に立つ国語教師は腰に手を当てて少し呆れた様子だった。 そういえばここは教室で、もしかしなくても今は授業中だ。 しまったという言葉が頭の中を駆け巡るが、もはやどうしようもない。 「南、次の段落を読め」 国語教師の声に急いで教科書を手にとってはみるものの、すでに南にはいま授業がどこをやっているかが分からない。 ぱらぱらと教科書を数ページめくってはみるが、そんなものは無駄な努力だ。 焦った南が隣の席の人にページ数を聞こうとしたとき、 「176ページ5行目」 後ろから小さく聞こえる東方の声にサンキューと心の中で礼を言いながら、南は立ち上がった。 さすが東方。オレのダブルスパートナーは頼りになるぜ。と思いながら教えてもらったページを探し当てる。 教科書を朗読し終え席につくと教師が静かな声で続けた。 「今は国語の時間だぞ。外へ行きたいのも分かるが、集中しろ」 「・・・すみません」 国語教師の言葉に南は謝る。 こちらを向いてくすくすと笑うクラスメート達の目がかなり恥ずかしい。 あわてて南はシャ−ペン持ち直し、ノートを覗き込む。 だいぶ前から写すのをやめてしまったノートは窓から差し込む日差しを反射させて白さが少しまぶしい。 「ここでまた『イメージ』という言葉が出てきているな。これは前の段落の・・・・」 教師が黒板に板書を再開させるとくすくす声がピタリとやみ、またノートを書く音が教室中に響くようになる。 ほっとした南は軽く後ろを向いて、小さく礼を告げる。 それに対し東方はやれやれといった感じで軽く肩を諌める。 南は板書をノートに写そうと黒板に真剣に向き合おうとしたが、ふと思い立ち、再びちらりと窓の向こうを窺った。 すると、もうゲームは終わったのか、千石の姿はコートの外にあった。 楽しそうにチームメイトと笑い合う千石になんだか怒りがふつふつと湧いてくる。 「お前のせいだぞ」 南は小さく文句を呟くと、今度こそ中断してしまった板書の続きを再開した。 END ---------------------- 窓際で、君への愛をささやこう 一度使ってみたかった題です。 かなり気に入ってます。 私は南よりも千石がすきなので、 ストーリーは総じて千石贔屓。 ---------------------- |