快斗はゆっくりと目を開いた。
まず思ったのは自身の体の事。
ゆっくりと体を起こすがどこにも痛みは無い。
・・・・・おかしい。
45階建てのビルの屋上からの落下。ハンググライダーを広げた記憶はない。
だが、不思議な事に快斗は無傷であった。





不思議の国のカイト君






改めて辺りを見渡してみると、見たこともない風景が広がっていた。

・・・・・ちょっと待て。

快斗はたしかにキッドの服を着ている。
シルクハットがないがおそらくは落下中になくしたのだろう。 マントもないし、間違いないだろう。
それはさて置き、仕事をしたばかりなのだからキッド服でも不思議ではない。
だとしたら、何故?
自分は辺りにはビルひとつない片田舎みたいな場所にいるのだろうか。
雲ひとつないほどの快晴の天気なのだろうか。

わ、訳がわからない・・・
頭を抱え混乱する快斗を余所に、鳥たちはピ−チクと鳴いていた。




「急がなくっちゃ。急がなくっちゃ。」
ふと聞こてきたその声に、快斗は顔を上げた。
道の向こうからやってくるのは、確かに―――――・・・
白いブラウスに水色のエプロンドレス。胸元には群青色のリボンが揺れている。
てとてと。と如何にも音がしそうな感じで走ってくるのは。

どう見ても。

「青子ぉ?」
果たしてソレを青子と呼んで良いのだろうか。
たしかに細部は青子と同じパーツで形成されている。
だがしかし。
青子の姿は6〜7歳くらいで、あろうことか頭からウサギ耳が生えているのだった。
青子は快斗の素っ頓狂な声に反応することなく、「急がなくっちゃ」をしているのだった。


「ちょ、ちょった待てよ。青子!」
快斗の前を通り過ぎようとした青子を道を塞ぐ事で無理やり止めると。
「・・・なあに?あなた、どーして青子のこと知ってるのよ」
ぷん。っと頬を膨らませ青子は不信げに快斗を見遣る。
「おまっ・・・どうしたんだ?」
「どーしたって、何が?青子は急いでるの。じゃましないで!」
青子はごそごそとポケットから何かを取り出す。
それは青子の手には少し大きいサイズの懐中時計だ。
ぱちんと蓋を開け、時刻を確認した青子は真っ青になった。
「たいへん!もうこんなじかん!」
だいちこくだー!と快斗を避け慌てて走って行こうとする青子に快斗も慌てる。
「遅刻って・・・?」
「ハートの女王はじかんにうるさいのに〜!」
おなたのせいよっ!
青子はなおも引き止めようとする快斗をきっと睨み、そのまま急いで駆けていく。
残された快斗は青子の言葉に愕然とする。
「ハートの・・・女王?」


ここはいったい・・・?
訳が分からないまま、快斗は青子が行った方向へと歩きだすのだった。




空は美しいほどに冴え渡り、風がとても心地よかった。






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『不思議の国のアリス』のパロディです。
快斗=アリス、青子=白ウサギです。
在原、かーなーりーノリノリで書いてます。
バカな話ですが、よければ最後までお付き合い下さい。