平和な日常。
相変わらずの毎日。

爆弾を投下するのは、いつもコイツ。




君が好きなんだ 1






いつもながらコイツの唐突さには驚かされる。


目出度くHRも終わり、昇降口へ向かう途中の廊下で俺は自分の耳を疑った。
隣にはある意味トラブルメーカーな幼なじみの少女。
なんか昼ぐらいから色んなヤツに声をかけていたのは知っていたけれど。
まさか、こんな事を聞いていたとは知らなかった。

「はぁ?」
言われた言葉の意味を図りかねて、疑問を返してしまう。
もう一度言って欲しい。
そして、できれば俺の聞き間違いであって欲しい。
そんな俺のささやかな願いは全くといって天に届かなかった。
「・・・だから、快斗の『初恋の相手』って誰?」
爆弾投下、再び。
聞き間違いでも何でもなく、広島の原爆もびっくりな代物だった。

そんなさらっと爆弾を投下しないでもらいたい。
しかも、笑顔で。
心の準備と言うモノが必要なのだ。
『心の準備』と言うモノが。

ちらりと後ろの方を見遣ると屍が一体。
おそらく青子の集中投下で物言わぬ屍と成り果てたのであろうクラスメート。
憐れ、倫敦帰りの名探偵。
心からお悔やみ申し上げます。
合掌。
チーン と何処からともなく音が聞こえた気がする。
・・・幻聴?まだ若いのに。
そうやって俺がせっかく現実逃避をしているというのに、爆弾投下が得意なこの幼なじみは俺を現実へと引き戻す。
「ちょっと聞いてるの、快斗!」
学ランの端をくいくいと引かれながら怒られてしまった。
聞いてます。
できる事なら聞き流したいと思ってるんです。
「・・・なんで突然そんな話が出んだよ」
話題を変えたくて矛先をずらしてみる。
いつもなら乗って来るところだが・・・。
「いいでしょ、別に。そんな事より答えてよ!!」
ちっ。
青子が乗って来ないので、話題はそのまま。
・・・しょうがない。
腹を括って、てきとーに誤魔化すか。
「・・・・ん?」
ふと、思ったのだが。


「お前の『初恋』って誰だよ」


見事な切り返しで、逆に俺が爆弾を投下してみた。
効果は抜群。
青子の顔は一気に真っ赤になる。
な?だから言ったろ?
『心の準備』が必要なんだって。
これで分かっただろうから少しは懲りてもらいたい。
ま、期待はしてないけど。

「で?誰だよ」
意地悪く聞いてやる。
「青子が先に聞いたのにっ!!」
はん。真っ赤な顔で言われたって怖かないね。
「だーかーらー。青子が言ったら教えてやるよ」
完璧なポーカーフェイス。
内心の動揺など微塵も見えないはず。
そう。俺は内心焦っていた。
青子の『初恋の相手』。
知りたいような。知りたくないような。
かなり複雑だ。
俺の葛藤に全く気付いていない青子は、一頻り低く唸ってから、徐に口を開いた。

「・・・分かった」


え?


「青子の教えるから、ぜーったい快斗の『初恋の相手』教えてよねっ!!」
ちょ、ちょっと待った!
俺の心の葛藤と、準備は?!



ふと気付くと、いつの間にか昇降口はすぐ目の前。
こんな人が多い場所で、そんな爆弾発言を聞いて平静が保てるだろうか。
たぶん、無理。
「別に教えてくれなくても・・・」
いいんだけど。
言葉は最後まで言えなかった。
青子が真っ赤な顔をしてこっちを見ていたから。

ごくり。
喉が鳴る。
半分固まってしまった俺。
そんな俺の様子に気付かず、青子はゆっくりと口を開いた。

「青子の『初恋の相手』はね・・・」

周囲の騒がしさが全く気にならなかった。
俺と青子の周りだけが、まるで時が止まったかの様に静まりかえっていた。

「『魔法使い』だよ」
「・・・え?」

「夢のような『魔法』を、青子に見せてくれる人だよ」


『魔法使い』?
キッドか?
青子はキッドを嫌っているので、それはないだろう。
・・・てことは。

「・・・・・それってもしかして」
青子が言った『初恋の相手』。
当てはまる人物を一人だけ知っている。
おそらく当たりだろう。
青子の顔が仄かに赤い。

「親父か!!」

確かに親父は俺が唯一認める『魔法使い』。
そういや青子も親父のマジック楽しんでたもんなー。
青子の方を見遣ると赤い顔をしたまま固まっていた。
なんだ、親父か。
緊張して損した。

「快斗ーー!!」
絶妙なタイミングでクラスメイトが声をかけてきた。
「何だよ」
「バスケのメンバー足りなくてさ、やらねえか?」
「やる!」
一も二も無く即答。
ふと見ると青子はまだ固まっていたが、それはこの際置いといて。
「じゃーな、青子!!」
俺はそれだけ言ってグランドの方に駆け出して行った。






だから、俺は気付かなかったのだ。


青子が『初恋の相手』の事を現在形で言ったことも。
小さくなった俺の後姿に向かって「・・・・・・・バカ」と小さく呟いた事も。






+END+



ギャグです(きっぱり)
かなり楽しく書きました。
こちらは快斗視点。

→君が好きなんだ 2